また語り掛ける。
ふと、ある日気付いたの…。黒澤は言葉を紡ぐ。
「この世界は、アタシの様な人間には残酷で耐えられないってね。美しいけれど憂鬱な世界。」
あどけなさが残る声色に似つかわしくない冷笑を、黒澤は表情に貼り付けた。
「だから変えるのよ。」
「変える?」
「あたしの様な人間が生きていける世界に…。」
岸田の脳に、黒澤聖の過去の資料が浮かぶ。暴行事件以降、つまり彼女が脳に疵を負った後、カウンセリング過程では、後遺症による【ソシオパス】と診断されている。通常なら衝動的な行動が多いのだが、彼女については、感情の総てをコントロールしているとの事だった。
「あら?知ってるのね。あたしの事。」
クスクスと少女の様に黒澤は嘲笑う。
岸田の内は、恐怖心で満たされていく。一刻も早く、此の場を離れなければならないのでは…。そんな感情が零れ落ちていった。
「逃げなくて良いのよ。今のところ、危害を加える気なんて無いから…。今のところはね…。」
既に岸田は、黒澤の術中に嵌っている。ソレは蜘蛛の巣の様に、岸田の心に絡みついていったのだった。そんな岸田には、目もくれず黒澤は語る。
「世界を創り変えるのなら、一度、壊さないと。この世界を憂鬱で満たさなきゃね…。だから、あたしは、あの人を吸血鬼にしたの。」
黒澤は恍惚の笑みを浮かべ…。
「おやすみなさい。良い夢を。だなんて何年も放置していた娘に、また語りかけたんだもの。」
と云った。




