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それを踏まえて


 「精神科医さん。ソレを踏まえて、聞いてね。」

 黒澤は岸田の対面に座ってはいるものの、岸田の背面にある壁掛け時計を見ている。独り言の様に言葉を呟いていった。


 「あの人は、一人で死ぬのは寂しいからって、あたし達を道連れにしようとした。でも最愛の夫だけが死んでしまい、一層の事、寂しくなる。幸いにも遺産だけは腐る程にあったから、あたし達の生活は苦しくはなかったわね…。あの人は寂しさを紛らわせる為に、アルコール漬けになっていった。パパが居なくなって、寂しかったのは、あの人だけじゃなかったのにね…。ソレからはネグレクトみたいなもの…。ソレでも時折、優しい言葉をかけてくれた。そうねぇ。あたしが寝る時とかね。」


 少し無言が続いた。吐息を吐く。


 「おやすみなさい。良い夢を…。なんて言ったりね。」


 救えないわね…。黒澤は、そう云うと深く深呼吸をした。


 「綺麗な言葉。優しい言葉。そういうモノの大半は偽善的な事が多い…。その言葉はあたしに云っては居なかった。あの人があの人自身に言い聞かせていた言葉よ。優しい言葉をかける私は、良い母親だって…。そう思い込もうとしていただけ…。」


 岸田は身震いをする。黒澤鏡花の言葉が重なる。


 「アルコール漬けになった、あの人は陰虚体質になった。身体に水分が足らなくなる状態。喉が乾いて仕方なかったから、更にアルコール漬けになっていった。無理な飲酒は、身体を蝕んでいく。晩発性ポルフェリン症。あの人から聞いたでしょ?あの人は陽の光が触れると、触れた箇所の皮膚が爛れる様になった。陽の光を恐れて、日中に出歩く事はしなくなった。まぁ。あたしも学校には行かなくなっていたし、夜に出歩く事が多かったけれどね。そしてある日、あたしは暴行事件に遭った。脳の疵が深くなり、精神感応の能力が強くなった。ソレから、あたしは【暗示】【洗脳】【マインドコントロール】【催眠】について勉強・・したわ。あたしがあたしを護れる様にね。」


 岸田は既に飲み込まれている。黒澤鏡花の証言と黒澤聖の証言は、心の置き方は違えど、一致していたからである。


 窓から見える光景は暗い。暗闇の中に浮かぶ月は、円の状態で優しく光を放っていた。



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