終わりは呆気なく
「あ~らあらあら『救世主』~。それはナシでしょ~?」
サンクス達を『第四界』ごと焼き消そうとした火球は瞬時のうちに消え去った。
驚くサンクス達が見たのは『救世主』の首を片手で締め上げている鬼の面を被った胴着を着た男と、周りを踊るように跳ねまわる顔を包帯で隠した道化だった。
「ここにはゲームしに来てるんでしょ。直接手を下すとか、ルール違反は御法度よ。つまらないじゃないのよ」
道化はくねくね体を動かしながら『救世主』を詰める。声の限りは男だがオネエ言葉で喋っているのが動きと見た目と相まって気色悪い。
「あなたの性が性だから熱くなっちゃうのは仕方ないけど、自重しなさい」
ゴギリ、と嫌な音が辺りに響く。
『救世主』の首があらぬ方向に向いているのを見るに鬼の面が片手で首をへし折ったのだろう。『十三使徒』の攻撃で傷一つ着かなかった存在をいとも簡単に殺してしまった。
首の折れた『救世主』を引きずるようにしてその場を離れる鬼の面。サンクス達を一瞥もせずに虚空へと消えていった。
「ごめんなさいね~・・・潔く負けを認めなくって」
あれだけ離れていた道化は瞬きをする間に目の前に現れると、深々と頭を下げた。
『十三使徒』を展開して身構えるサンクス達。そんな反応なぞ気にもしていない道化は演じる様に大げさな身振り手振りをする。
「『救世主』は増長しやすい質でねぇ。本来はあなた達の最後の攻撃で終わり!って流れのハズだったんだけど・・・変に張り切っちゃって・・・」
嫌悪感に手足が生えたような存在に、一人が無意識のうちに切ってかかってしまった。
抵抗なく剣が目の前の存在を両断した。切りかかった騎士は今までに感じたことがない切り心地に持っていた剣を取り落とした。
「それじゃあアタシも失礼するわね。あ、それと。はい、これ。『第四界の礎』よ」
小さな星の模型を残った手で差し出してくる。肩口からバッサリと断ち切られ、中身がぼたぼたと落ちているのに全く意に介していない。今までに遭遇したどんな生き物よりも異な存在に後ずさるサンクス達。
「敵からの施しは受けないって言うの~?あら~流石は騎士ってわけね。でも、遠慮しなくていいのよ?間違いなく『第四界』はあなた達が勝ち取ったからね」
一番近くにいたサンクスに『第四界の礎』を渡そうと上半身のみのソレが近づいてくる。
サンクスは殆ど反射的に道化の頭を剣でかち割っていた。ゴキブリみたいな不快な虫が出たから殺すのとはまた違った感覚だった。「一秒でも目の前の存在を許してはいけない」という感情どころか本能をも超えた感覚。
「まだまだ先は長いけど、頑張ってね♡色々イベントも考えておくから」
半身を失い、頭をスイカの様にかち割られても全く態度を変えずに道化はサンクスにしっかりと『第四界の礎』を手渡してきた。呆然としながらも受け取るサンクス。
「じゃあね~」
手を振った後、ここに現れた時の様に唐突に消えた。そこらに散らばっていた体も臓物も、周りを汚した血も綺麗さっぱりと。残ったのは確かに渡された『第四界の礎』のみ。
騎士たちの中から犠牲者を出さなかった上々と言える成果。女王陛下に捧げるべき成果を得たというのに。
『十三使徒』は女王陛下や無辜の民の為の矛であり盾であり、忠実な駒であるべきなのに。
心に去来する狂気的なまでの恐怖や絶望的なまでの虚無感に支配され、動き出すのにしばらくの時を要した。
――― 『第四界』攻略おめでとう! 次の攻略の前にイベントを予定してるからたのしみにしててね! ―――