逆切れ
崩壊していく『寄星虫』を見るに確かに心臓を貫いたのだろう。無事に目標を達成できたと喜ぶ面々。
だが、探知を続けていたケファ老ただ一人が顔を青くして震えていた。その様子を見て空気が変わる。まだ、終わっていないことを悟る。
「なんと・・・。『寄星虫』の死亡は確認・・・。じゃが・・・あの変なマスクの男は、未だ健在じゃ・・・!」
ケファ老の言葉を聞き、隊員たちは各々『遠見』の魔術や感覚を強化する闘気術『鋭敏術』を使用し崩壊する『寄星虫』を見据えた。そして見つけた。
塵と化していく『寄星虫』の中からペストマスクの男が五体満足の状態で浮かんでいるのを。先のモニターでの飄々とした雰囲気は鳴りを潜め、禍々しい闘気が立ち上っている。
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「・・・やってくれたね。・・・可愛い『寄星虫』ちゃんを打倒するなんてね・・・」
ぼそぼそとした喋りのはずが確かに耳に届く声。自分たちから目測で少なくとも200㎞は離れているはずだが。背筋を這いまわるような不快感が沸き上がる。
「下手に介入するなってお達しを破った罰なのかなぁ・・・。すぐに調子に乗って増長するのが悪い癖だ」
喋りながら一本指を立てる。指先には一つ小さな火の玉が浮かんだ。
「ああ、確かに。僕の性というのもあるが、間違いなく僕の落ち度だ。弁解の仕様も無いよ」
指先の火の玉はどんどん大きくなっていく。警戒をするサンクス達。強く睨みつけいつでも対応が出来るように身構えていた。
だが、火の玉の膨張が止まらないことに眉を顰め、船より大きくなった時には顔色を青くし、『寄星虫』の大きさにまで達してもまだ膨張を続けるころには一周回って笑いが込み上げて来そうになった。
「それでもねぇ・・・。ムカつくことには変わらないんだよねぇ!」
先の闘気がお遊びのそれだったようだ。闘気が噴出される様は星の爆発を想起させるほどであり、ここまで離れていても『第四界』の端まで吹き飛ばされてしまった。後ろにはもう逃げられない。
「僕に攻撃するだって!?ゲームに身をやつした下等な存在が!無様に負けた『大いなる意志』の奴隷如きがこの『救世主』に盾突いてきやがって・・・!」
『第四界』の四半分以上を埋め尽くすほどの大きさにまでなった火球。避けることなど不可能だろう。光の元になっていた『寄星虫』が死亡してから辺りは冷え切っていたが、今は尋常ではない熱を感じる。
「攻略は君たちの手で成った。だけど、君たちは気に食わない。だからこの世界ごと焼き消してあげるよ」
圧倒的な理不尽。抗う術も無く、視界一杯に広がる火球を受け入れるしかない。しかし、目を逸らす者は誰もいなかった。
「胸を張れ皆!直接女王陛下に成果を献上出来なかったが、確かに我らが攻略を成したのだ!我らがこそが勝者だ!」
サンクスの声は震えていたがしっかりと芯の通った声だった。彼らの目は死んでなどいない。むしろ超巨大な火球に負けない程に燃え盛っていた。
絶対的な絶望を前にして屈しない彼らを見て『救世主』はますます機嫌が悪くなる。
「調子に乗る子たちには躾が必要だよねぇ・・・!この『第四界』だけにしようと思っていたけど、止めだ・・・!」
『第四界』の四半分を占めていた火球がその数を増やした。サンクス達がいる場所以外に火球が所狭しと浮かんでいる。サンクス達は今度こそ目に絶望を浮かべる。
「『第四界』に修復不能なダメージを与えるだけじゃなく、他の世界も巻き込んでやるよ・・・!僕を怒らせたことを後悔するといい・・・!」
『救世主』は指を振るい大量の超特大火球を発射した。