燃える心は逸らず
ペストマスクの男は飛び回る『十三使徒』を見て撃ち落とす対象が増えたことに喜んだ。
『ふっふっふ・・・色々と楽しませてくれるね~。でもまだまだこっちには手数があるからね。気を抜かないようにね~』
モニターからさも楽しそうにこちらを嘲笑う声が耳に障るが反応するのも癪。というより反応する余裕も無い。
「アッド!展開し過ぎないで!お互いがカバーできる範囲を保つのよ!」
サンクス隊長は逸る気持ちを抑えつつ仲間の動きを把握する。
自分たちに与えられた新たな力。空を自在に飛び絶大な力を発揮するこの道具は抗いがたい全能感と陶酔感をもたらす。今にも使命を忘れて力のままに振る舞いたい衝動に駆られる。しかし、その強烈な誘惑を振り払い、目の前の脅威を見据える。
再び隕石と光線の暴威に曝される。
「っ!タックスが被弾したわ!すぐにイクサの修復を!空いた穴にステーブルが入って!」
ひとたびその気持ちに浸ってしまったら、即座にお陀仏だろう。そうしたら無様に成果も無しに無駄死にをすることになる。それだけは受け入れられない。
『十三使徒』はそんじょそこらの強者たち(プレイヤー)にも負けない強さを持つ。
その恩恵は『恩恵を持たない』者にしか与えられない。選ばれた十三人は今まで特筆すべき成果も無ければ、誇れる武勇も無い者たちだ。十把一絡げな平団員だった彼らは急遽力を与えられて鉄火場に放り込まれるという、ある意味強者たち(プレイヤー)のような存在になった。
「私たちは選ばれた・・・。しかし、驕ってはいけない・・・!力だけを得て喜ぶ汚物は腐るほど見てきたじゃないか・・・!」
平団員とはいえ、強者たち(プレイヤー)の振る舞いを見てきたのは騎士団や魔術師団だ。好き勝手する者を鎮圧したり、犯罪を犯した者をしょっ引いたりなど、煮え湯を飲まされ続けてきた身として「ああはなるまい」という気持ちは大いに持っている。
故に、彼らは驕らない。力に振り回されても、振り下ろす先を見極めることは忘れない。この力は女王陛下に成果を捧げるためのもの。無辜の民を守るためのもの。そして、世界を破滅より救うためのものである。
『十三使徒』の操縦はかなりの体力と気力を消費するが、彼らの心には常に火が灯り体を動かす熱を生み続けていた。
「我らは決して折れない!退かない!負けない!我らが持ち帰るは『第四界』攻略という成果のみ!」
そんな風に燃えている彼らの心情を知ってか知らぬか、嘲笑うが如く敵からの攻撃はより一層苛烈さを増していくのだった。