『寄星虫』の猛攻
『寄星虫』が動き出したことにより、呑が導き出したルートは無意味となった。醜悪なその姿に臆する者もいれば奮起する者もいる。この船の船長を自認する者がそうだ。
「ゲッヒャ!いいねぇ!退屈な船旅だったんだ!ここで一発イベントが欲しかったんだ!」
喜びを露にするイカリ。一方、呑は難しい顔をしながら頭を回していた。
(偵察をした折に軽く見ただけだったが、アレは確かに眠っていた。正直に言うと、いつ起きるかわからないからこそ、アレの背をとるようなルートにした。しかし、ここまで都合の悪いタイミングで起きるとは・・・)
今は確実にこちらを認識しているであろう巨大な虫を正面から見据えて、眉間の皺をより一層深める。
(激突することは想定していたが、些か距離が遠すぎる。正直に言うと、もう少し時間をかけなければ私の案は結実しない)
思考の海から引き戻したのは攻略を共にする仲間ではなく、唐突に目の前に出現した無粋なモニターだった。真っ黒い画面の奥から銀色のペストマスクが顔を覗かせた。
『やーやーやー。『第四界』攻略組の皆さんこんにちは。こんな星屑しかないつまんない世界にようこそ。まずは歓迎の御挨拶だ。受け取ってちょうだい』
ペストマスクはいきなりモニターで声をかけたかと思うとこちらの反応も待たずに何かをしてきた。
呑は即座にモニターから虫のほうに目を移した。『寄星虫』は辺りに漂う星の残骸を触手で掴むと、取り込まずにそのままこちらに投擲してきた。
「イカリ!可能な限り避けろ!正直に言うと、速度が落ちたら触手に捕まるぞ!」
「ゲッヒャー!楽しくなってきたぁ!テメエら!振り落とされるなよぉ!」
操舵輪を握ると、そこに先ほどには無かった機構が付いていた。イカリは笑うと握ったものを回す。船は風もないのに凄まじいスピードを出しながら推進した。先ほどの機構はアクセルみたいなものだったらしく、船は船尾から炎を噴き出しながら宇宙を翔けていた。
飛来する雨のような星屑を巧みに躱していく。運転は荒くも全くの被弾も許さない機動はイカリの操舵技術の高さを物語っていた。
「闇雲に逃げ回るなよ!正直に言うと、わかりやすい安地は罠だ!逃げ場が無くなるぞ!」
「ゲッヒャッヒャ!楽しいなあ!やっぱ冒険はこうでなくっちゃなぁ!」
ぶつかりそうになった星を錨で搦めとって吸収し、船を動かす燃料を補給する。イカリが運転をミスらない限り、この鬼ごっこは永久に続けられるだろう。
再びモニターが現れ不気味なペストマスクの男が映る。楽しいのか笑っているのか肩を揺らしている。
『さっすがここまで問題無く来るだけはあるね。それじゃあ、次の試練だ』
『寄星虫』の体から一際目立つ触手が4本生えだした。触手の先にはエネルギーが集まり出す。その先は船に向けられている。
『インベーダーゲームやろうぜ!君らUFOな!』
『寄星虫』のはち切れんばかりに余っているエネルギーを光線へと変えて撃ち出してきた。進路上のものを容易く蒸発させる必殺の光線が船を狙う。