航路決定
「さあさあ!早いとこルートを教えな!もう待てねえぞ!略っ奪!略っ奪!」
不快な人間が不快な声で不快なことを喚き散らしている最悪の場。キビキビと働いている乗組員以外の人間が極力その存在を無い者として扱う。
呑は乗組員に用意させた机の上に『第四界』の地図を広げた。太陽系のように真ん中に『恒星』ノヴァが座した綺麗な世界を模した地図だ。
「現在地は此処。わかっていると思うが目的地は中心だ。ただ真っすぐに突き進むと即座にあの触手で捕捉されることは確認した。正直に言うと、かなりの速さだ。この船の速度でもまず振り切れない」
「虱潰しに偵察を出し、死角になる位置を探した。正直に言うと、クッソ面倒くさかった。収穫はあったがな」
外を指差す呑。つられて見ると光る虫が見える。
「今のあの虫は眠っているのかはわからんが丸まっている状態だ。頭や尻の先のつなぎ目のちょうど反対側。正直に言うと、真背中にあたる部分。そこを中心として警戒が薄い」
「つまり、あれの背中側に張り付くようにして近づいていけばいいわけね」
サンクス隊長の言葉に頷く呑。再び地図に指を落とす。現在地から中心に向かうルートを描く。ルートは外から内に狭まるような螺旋状に記された。
「あの虫は星の様に自転している。つまりこちらは円を描く様に中心に近づくようなルートを辿ることになる。正直に言うと、ズレればアウトだ」
「ゲッヒャ!任せておけよ!俺様の操舵術は完璧だぜ!初心なネンネよりも繊細にやってやらぁ!」
イカリはルートを聞くや否や即座に操舵輪を握ると景気よく回し始めた。外縁部を沿うように走っていた船は縁を離れ、呑の描いたルートを往く。
「早すぎても遅すぎても駄目だ!しっかりと虫の動きを確認して走れ!正直に言うと、頭使えよ!」
急な挙動をみせた船の上でも変わらず不機嫌な顔で告げる呑。騎士たちの中には尻もちをついたり、側の柱を掴んだりしてどうにか踏みとどまる中で、自然体で立つ呑は異様に見える。
「ゲッヒャッヒャッ!誰に物言っている!俺様はキャプテン=イカリ様だぞ!」
今まで抑えられていた分ハイになってしまっているイカリに言葉をかけるのが無意味と悟った呑はわざとらしい溜息を吐くと騎士たちに声をかけた。
「特に妨害が無ければ一日はかからないだろう。正直に言うと、いつでも動けるようにしておけ」
膠着状態からやっと攻略への二歩目を踏み出した一行。胸に秘めるものは違えど目的は一緒。非常に空気の悪い呉越同舟となったこの船は『第四界』を邁進していく。