若き騎士の反発
リーダー格の女騎士に情報共有を受けた他の騎士や魔術師は、やはり難色を示した。そんな中でも一番年若い者の反発は凄かった。
「そんな!?我々に乗組員を見捨てろと言うのですか!?何のために力を得たのですか!守るべきものを守らず何が騎士ですか!」
声を大にして青臭い事言うものだから咄嗟に口を手で塞ぎ、強制的に黙らせた。
「堪えてくれ・・・!奴は我々がどう動こうとも計画は実行すると言っていた・・・!なれば、我々もそれに沿って動くしかあるまい・・・!」
「今からでも奴に止めさせましょう!あまりにも非人道的です!」
走り出そうとする若い騎士を手で止める。憤りに燃える瞳を睨み返す女騎士。
「もう、遅い・・・。動くのならば攻略を始めてすぐに動くべきだった・・・!」
理由を聞いた若い騎士の顔が青褪める。そして力なく膝をつく。
「そんな・・・それじゃあ、この状況も、我々が奴の思うように動くしかないのも・・・」
申し訳なさそうに女騎士は膝をつく騎士に手を差し伸べる。
「・・・大事の前の小事、多を救うため少を切り捨てるのは、大局を見る者には必要な考えなのかもしれない。・・・だが、お前の全てを救おうとする姿勢こそが、我々騎士団のあるべき姿だ。胸を張ってくれ。・・・見誤った私を罵ってくれて構わない」
差し伸べられた手と女騎士の顔をゆっくりと見比べてから、手を借りずによろよろと立ち上がる。
「・・・サンクス隊長を責めることは、己の失態を認めない愚か者がすることです。僕は、自分が賢いとは思っていませんが、それぐらいの分別は、あるつもりです」
「アッド・・・済まない・・・」
『ゲッヒャッヒャッ!やっとこさルートがわかったみたいだぜ~!野郎ども!甲板に出て来やがれ!』
しんみりとした空気に浸る時間も無く、下卑た声の船内放送によって現実へと引き戻される二人。お互いに目を合わせて、溜息を一つ吐く。
「あの略奪馬鹿が!あいつさえちゃんとしていれば、我々もまだ選択の余地があったというのに・・・!」
吐き捨てるように言うアッドと呼ばれた若い騎士の言葉に内心で同意しながらも、表には出さないように振る舞う。リーダーとしてここに来ている以上、下手に感情を露にするわけにはいかない。
「落ち着け。呑の奴も言っていたが、イカリの馬鹿にこちらの動きを気取られる訳にはいかない。・・・計画が進行している以上、卓袱台を引っ繰り返せるのはイカリしかいない。・・・最悪な意味でだがな」
部屋を出て甲板に向かうサンクス隊長の背を見送るアッド。拳を握りしめ、苛立ちを壁にぶつける。血がにじむ手の中で指輪が意味ありげにキラリと光っていた。