目的は虫?
「にしてもよぉ!いつまで外側グルグルしてりゃあ良いんだ!?ちまちま動くのは性に合わねぇんだよなぁ!」
航海を楽しんでもまだ満たされない欲。厳重に封印されどれだけの人間を踏みにじろうとも尽きない欲。もはや『強欲』をも超えた『願い』に近いモノ。
「『略奪』が足りねえ・・・!この世界を舐り倒さねぇとなぁ・・・!昂ぶりは収まらねぇんだよ!」
手に持った酒瓶を床に叩きつける。背負う空間が捻じれて見えるような禍々しい闘気を発しながらイカリは猛る。
煩わしそうに本を閉じ、立ち上がった呑は彼方を指差す。
「私たちの目的地は決まっている。今も見えているだろう?正直に言うと、静かにしてろカス」
指差したのはこの世界の中心。『恒星』ノヴァがあった場所。
今そこにあるのは星では無い。
傍から見たらダンゴムシ、グソクムシに似ている。丸まった状態で恒星の光を発する異物が見える。時折体から触手のようなものを出して近くの星の残骸を絡めとっている。
「『寄星虫』と呼ばれるモンスター・・・。星に巣食い星を食らう『第四界』固有の種でしたね・・・以前まであんなに大きな個体なんて影も形もありませんでしたが」
部屋で休む様に言われたが一応見張りとして残っていた魔術師の一人が、不気味な物体について語る。
「虫けら如きに俺様の歩みを止められるかってんだ!行く場所がハッキリしているならさっさと行こうぜ!」
乗組員が持ってきた新しい酒を引っ手繰ってまたガブガブとラッパ飲みをする。
「そう簡単にはいかない。アレをあまり刺激させずに近寄らなくてはならない。下手に近寄るとあの触手に絡み捕られて終わりだ。正直に言うと、お前の自殺に付き合う気は無い」
イカリを睨み、中央の虫を睨み、不機嫌さを隠さない呑。
「既に何個か偵察を放っている。だが、ある程度近寄るとすぐに触手に捕まっている。正直に言うと、虱潰しだ」
「今は触手の届かない世界の端を動いていてくれ。・・・『敵』はゲーム感覚でいると聞いた。なら、必ずどこかに通ることのできるルートが存在し、攻略を阻む脅威が潜まされている。正直に言うと、クソゲーだな」
呑の言葉に理解を示しながらも全く納得いっていないように唾を吐き捨て酒を呷るイカリ。側では物言わぬ乗組員が先ほどの割れた瓶の片付けをしている。
呑はまた椅子に座りなおして本の続きを読み始めた。
嫌々ながらも仕事を熟している呑という男を見て、魔術師は見直すとともに警戒のレベルを少し上げる。
(今回の攻略・・・。選出された強者たち(プレイヤー)はイカリとこの呑という男のたった二人。・・・イカリは有名な略奪者で、能力も周知されているから納得の選出だ・・・。しかし、この呑という男。いったいどんな能力を持っているんだ?)
先程「偵察をした」と言っていたがそんな素振りは一切見て取れなかった。ただ一人空気も読まずに本を読んでいただけに見えた。嫌味な男。
(『一点紅』殿より伝えられた情報もそう多くは無い。他の隊員もこの男について知れたことはそんなに無かった。・・・ただ、一つ、今回の選出理由のみ)
見つめすぎて不信感を持たれない様に視界の端でとらえる様に男を観察する。
(『個々人としての戦力ではなく、戦場自体を相手取る『戦略兵器』として選出された』というもの・・・)
ゴクリと生唾を飲み込む。呑という男の底の知れなさに僅かに恐怖する。
咄嗟に装着された指輪を撫でて気持ちを落ち着かせる。自信の源である指輪。選ばれた証である指輪。
(この攻略で成果を上げるために我らは参加した。団長たちに無理を言ってもらってこの攻略に捩じ込ませていただいた・・・きっと強者たち(プレイヤー)は期待もしていない、お荷物扱いをしているだろう)
指輪を触る手に力を入れる。骨も軋まんばかりに握りしめられている。悔しさと怒りを燃やす。
(ふんぞり返るのも今のうちだ・・・!我らの力、見せつけてやる・・・!)
心を燃やしている魔術師は気づかない。本を読んでいる呑の目がいつの間にか自分に向けられており、品定めのようなことをされていたことに。




