殺伐とした船上
睨み合いを先に終わらせたのはイカリの方だった。べっ!と唾を吐くと面白くなさそうにまた酒を呷った。
「ゲヒッ!殺し合いなら望むとこだが、俺様は大人だからなぁ!おチビさんの顔を立ててここは引き下がっておいてやるよ!」
「無駄な内輪揉めは戦力の低下だ。賢明な判断だと思うよ。正直に言うと、なら酒を手放せ汚物」
睨み合いが終わっても未だバチバチにいがみ合っている。
選出された騎士・魔術師は遠巻きに二人の様子を蔑む様に見る。その他の乗組員は無駄口を叩かずにテキパキと働いている。
「お前もあいつらみたいにいい子にしてろよ~?小うるせえのは息が詰まっちまうタチなんでな!」
呑は騎士たちを見て馬鹿にしたような軽い笑いを吐き捨てる。殺気立ち剣に手をかける面々をリーダー格の女性が手で止める。そんなやり取りを見てまた旨そうに酒を呷るイカリ。
「あ~あ~・・・喧嘩は上等だが、下手に殺すなよ~?ま!死んでても俺様が活用してやるからなぁ!ゲッヒャッヒャッヒャッ!」
言っても無駄なことだと溜息を吐いた呑は騎士たちのいる方に足を向けた。身構える騎士たち。そんな行動すら癪に障るらしい呑はわかりやすいぐらいに顔を顰める。
「ふん。来るべき時の為にキチンと休んでおくことも大切だろう。各自部屋を与えられているのだからゆっくりしていろ。正直に言うと、目障りで仕事の邪魔だ」
呑のあんまりな物言いに激高しかけるがまたリーダーの女騎士が諫める。そんな彼らをまるで気にせず、横を通り過ぎると甲板の中央に設置された椅子にドカリと座り込み、懐から取り出した本を読み始めた。
「リーダー!言われっぱなしで良いんですか!これでは我らの威信が・・・!」
抑えきれないと言った感じで女騎士に詰め寄る面々。女騎士は冷静に首を振る。
「まだ何の成果もあげられていない我々の言葉は軽い。今は耐えなさい」
悔しそうに歯噛みする。このまま終わりまで無礼られる訳にはいかない。決意を新たにしたブリリアント王家直属の二大師団が臨む最初の攻略なのだから。
「機会はきっとある。それまでは牙を研いでいなさい」
騎士や魔術師は装いが新たになりながらも変わらず身に着けている臣下の証であるブレスレッドを軽く掲げる。掲げた手には全員似た形状の指輪が付けられている。
「耐えがたき屈辱も、気に食わない強者たち(プレイヤー)も我々が成果を掴むための糧でしかないと、この攻略で知らしめてやろう」
騎士たちの瞳は仄暗い決意の炎で燃えていた。
そんな騎士たちの様子を見逃さずにしっかりと確認していた呑はまた溜息を吐いて本に視線を戻した。
(彼らがどう動くのか。意識は割いておかなくてはね。正直に言うと、帰りたい)