いざ『第四界」へ
次に挑むは『第四界』。元は太陽系を小さくしたような宇宙の世界であった。
中心に鎮座する光輝く星。太陽の役割を持ち、『第四界』の星の動きの制御を担っていた支配者。第四天『恒星』ノヴァが管理する、星の瞬く神秘的な世界、だった。
今では規則的に周っていた星々は乱雑に動き、互いにぶつかり合っては散らばり、また軌道を変えて別な星にぶつかるの繰り返し。生身でこの世界に来ようものなら即座に動きの読めない流星群に巻き込まれてボコボコにされてしまう。
今の『第四界』を攻略するのに必要なのは隕石や流星群をしのぎ、安全に行動するための『船』、所謂宇宙船だ。ただ、如何にこの『Unknown World』が魔術も機械文明もある何でもアリの雑多な世界にしても、ポンと宇宙船など用意出来ない。そも『第四界』は宇宙「みたいな」世界であり、星と星の間は無重力空間だが空気は普通にあるという何ともご都合主義の塊のような設定をしている。そんな感じなので今まで宇宙線なぞ必要とされていなかったためここには存在していない。
そこで、『一点紅』が関係各所に土下座する勢いで交渉してまで仮釈放させた男。『界賊』と呼ばれる男の出番である。
―――『三社員の小屋』 資材搬入広場 ―――
普段ならモンスターや資材を運び入れるため列をなしている広場には、巨大なものがドンと置かれていた。
どんな荒波をも耐えるような重厚な船体。どんな強風をも味方につける頼もしい帆。見上げるような大きさを誇るガレオン船のような船があった。
その船を満足そうに見上げる男が一人。
「ゲッヒャッヒャッ!良い~船だ~!流石『三業』のところだ!いい仕事しやがるぜ!」
下品に笑うこの男。身長は優に2メートルは超え、上半身裸にフロックコートを羽織る『THE・海賊』と言った出で立ちの男。今回の『第四界』攻略の中心人物。
「俺様がしっかりこっきり使ってやるぜ~!ゲッヒャッヒャッヒャッ!」
封印を解かれ、僅かばかりの自由を謳歌している『界賊』のキャプテン=イカリが下品な高笑いを抑えずに続ける。周りの者は端から無視をするか侮蔑の視線を向けるばかりである。
「・・・ほんとうにすみません。攻略が終わり次第またすぐ牢にぶち込みますので・・・どうか攻略中は目をつぶっていただいて・・・」
『一点紅』は憮然としている騎士たちにペコペコと頭を下げている。
「おいおい!人の能力あてにしといてそりゃないぜ!攻略成功の暁には恩赦ってもんが欲しいもんだ!」
ドスドスと歩いてきたイカリは盛大に嘆く真似をする。集める視線はどれも冷たい。
「まったく俺が閉じ込められていた間に『義理・人情』ってモンは無くなっちまったのかねぇ!」
殺気立つ周りをねめつけるように見下すイカリ。一触即発の殺伐とした空気が流れるが、空気を読んでか読まないでか、乱入してくるものが一人。
「毎度ぉ。『一点紅』はんと団の皆はん。とりあえず食料とかは船に運んでええでっしゃろかぁ?」
『休業』の銭形が目録片手にぬるりとやってきた。浮かべた笑みを崩さずにイカリを見やり、また一段と笑みを深める。
「久しぶりやなぁイカリはん。帰ってきたんやったらいい加減借金を払ってくれんかなぁ。諸々が積み重なってえっらい額になっとるでぇ」
「おっと俺様は船内の確認をしないとな!」
くるりとその場から逃走し、船の中へと消えていくイカリ。彼がいなくなったことで悪かった場の空気は元に戻った。『一点紅』は溜息一つ吐くと銭形に礼をのべる。手を振って気にしない素振りをする銭形。
「ご苦労さんやなぁ。僕らは金の分、仕事をするだけやから気にせんといてやぁ。・・・目録持ってきたのも嘘やないしねぇ。『一点紅』はんと団の代表の方、確認願いますぅ」
にこやかに紙を差し出す男に苦笑する面々。金にがめつく食えない男。だけども誰よりも誠実な銭形という男は信を置くのに値する。こちらがキチンと誠意を見せ続ける限り。
――― 第四界 『縮小空域』改め『壊滅宇宙 コスモポリタン』 攻略開始 ―――