世界に嫌われた存在
『Unknown World』では人の生き死には軽い。
死亡したものは『第十二界』に送られる。寿命以外の理由で死亡した者はこの世界で仕事に従事することで、再び甦ることが出来るのだ。生前の罪の数に応じて刑期は伸びるため、真面目な人ほど早く極悪人ほど遅く復活することになる。
そんな世界なので犯罪者は比較的簡単に『死刑』となる。だが、『死刑』にならない者も中にはいる。理由は様々あれど、ろくな人間ではない。
目の前の牢に入れられた男を見て、『一点紅』は逡巡する。どうにか二大団長を説き伏せて男の仮釈放を勝ち取った。だが彼女からして男を野放しにしたくない気持ちでいっぱいだ。
『一点紅』が攻略に求めた男は『第十二界』を含む13個ある世界を荒らしまわったとして、ほとんどの世界を出禁になったほどの大犯罪者だ。『何でも出来る』このゲームにしてBANのような措置を取られている存在はそういない。
今はガッチガチの封印をされた上で指一本動かせない様に拘束されている。下手に殺しても『第十二界』から即座にはじき出されて黄泉帰りを果たしてしまうため、一箇所に留めておくべきだとして牢に入れられている。
『一点紅』が牢番に目を向けると、本当にやるのかという表情で返された。アホを見る目で見られて非常に悲しくなるが頷いて開錠を促す。
牢の扉が重低音をあげながらゆっくりと開く。
中にはミノムシと見まがうほどに鎖やら縄やらで雁字搦めにされているものがあった。形からしてどうにか人であると感じる程度に隙間なく巻き付かれている。足元には魔術陣が設置され、不気味な色を発しながらグルグルと描かれた模様が動いている。
「・・・まずは挨拶かしら。久しぶりね。『界賊』」
封じられているモノは『一点紅』の声にピクリと反応を示すとうねうねと悶えだした。
「アナタと問答する時間は無いの。単刀直入に言うわね。次の攻略に参加しなさい」
この戒めから解放してもらえるとなったモノはさらにビクビクと悶える。『一点紅』も牢番も気持ち悪さに一歩引いた。
「無罪放免になるわけじゃないのよ。攻略中に下手な動きをしたり仮釈放の期間にアホなことをしたらまた即刻封印するわよ!」
その言葉を聞くと不貞腐れたのか消沈したのか動きは止まる。
「広大な『第四界』を移動するのにアナタの能力が適任なのよ。・・・『船』と乗組員はこちらで用意するわ。勝手は出来ないから諦めなさい」
今度は怒っているのか猛然と体を身もだえさせる目の前のミノムシ。牢番が手にもっている『お仕置き棒』という名の棍棒を構える。どうにか諫める『一点紅』。目の前のミノムシなぞ平時ならいくらでも甚振ってくれて構わないが、今回の攻略の要となる人物だ。
「攻略が始まる少し前に解放するわ。そこから攻略までの間で準備を済ませなさい」
『一点紅』は興奮して悶えるミノムシを無視して牢を出た。嫌な顔をしている牢番にねぎらいの言葉と多少のお金を持たせてその場を後にする。
「船は『三業』のところに注文するとして、乗組員はどうしようかしら・・・。あの『界賊』の船に乗りたがる人なんて・・・。ああ、もうっ!二大師団との軋轢が無ければ・・・!」
ぶつぶつと思案する『一点紅』。頭を捻り、胃壁を犠牲にしながらでも彼女は必要な人を集めきるだろう。必死になって駆けずり回り、求めるべく平和と平穏のために。
『大いなる意志』の庇護の下に。




