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大いなる意志のヒの下に  作者: PERNOG
幕間 第三界 攻略後
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命は金で。金は命で

 『三業』の『療養部』がトップ、『休業(レスト・トレース)』の銭形白三は癒しの術を使う天使、という名の守銭奴である。

 『三社員の小屋』の金の流れは必ず彼を通る。日に何千兆Zも金が行き来するため、嵩張りにくいという理由だけで『Unknown World』に紙幣制度を導入させた強者である。ちなみに紙幣は『三業銀行券』として発行されている。


 白衣を羽織っていつも微笑を浮かべる狐目の男。彼は己の能力で荒稼ぎと人助けを両立させている。


 彼の元には金と共に人が集う。病人であろうと健康優良児であろうと銭形は歓迎する。


 今日も銭形を頼って一人の男が『療養部』へと訪れた。彼の常連になっている一人。生まれてこの方病気も怪我もしたことは無いが、仕事が続かず、日々の食い扶持を稼ぐことが出来ない男。そんな落伍者もこの男は見捨てない。


 「銭形の旦那。今日も売りに来たぜ」


 金の勘定をしていた銭形は常連の男の顔を見て笑みを深める。


 「おーおー兄さんですかぁ。有難いでんなぁ。兄さんはよく来てくれるさかいぃ。色付けさせてもらいますわぁ」


 即座に算盤をはじき出す銭形。慣れたように何かを売りに来た男は銭形の向かいに座る。


 「今日はどれぐらい売るん?いくら兄さんが丈夫でも無理はいけんよぉ?」

 「大丈夫でさ旦那!旦那のお陰で腹いっぱい食えてしっかり寝てるからな!・・・いつも通りで頼みますわ」


 銭形は軽く肩を竦めると自分の後ろにある金庫から札束を引っ張り出し、男に手渡す。


 「すまへんなぁ。それじゃいつも通り『12時間分』買わせてもらいますぅ。一時間10万で120万Z。やけど、今日は色付けて132万、いや、切りよく150万Z出させてもらいますぅ」


 札束を受け取った男はホクホク顔である。この金があれば当分は大丈夫だろう。


 「良いんですかい!?ありがとうごぜえやす!」

 「そいじゃあ『12時間』もらいますぅ。動かんといてなぁ」


 座る男の頭に手をのせ、能力を発動させる。男の体からオーラのようなものがどんどん銭形の手に吸い込まれていく。数秒で吸収は終わり、頭から手を離す。


 「ふあ~・・・あっ、すいやせん!これやると眠くなるもんで・・・」

 「そら仕方ないわぁ。兄さんからは元気、生命力みたいなもんを貰っとるんやぁ。寿命が減るわけやないけど貰った時間分、兄さんの体は疲弊するんやぁ。この後はちゃーんと飯食って睡眠取るんやでぇ?」

 「わかってますって!それじゃ俺はこれで!」

 「毎度どーもーぉ」


 眠たさと疲れで軽くふらつきながらも男は気楽な感じで出て行った。男が自分の元気を売って得た金は『三社員の小屋』で豪遊するのに消費されるだろう。


 「あの兄さんは上客やねぇ。これだけあれば軽く20人は癒せるやろぉ。また儲かるなぁ」


 笑みを深めて次の稼ぎに思いを馳せる。彼の『休業(レスト・トレース)』は他人の元気・生命力を金に変換して預金し、けが人や病人を金の消費で癒すことが出来るという能力である。

 これによって生活困窮者や浮浪者に仕事と金を与えて、経済の歯車に組み込む。そのお陰かこの世界では餓死者や犯罪に手を染めるものが極端に減った。

 社会の受け皿の役割をも果たす『休業』の銭形を無下に出来るものが居るはずもない。女王からも直接お褒めの言葉を頂戴して、頼りにされている『三業』の歩みは止められない。


 「攻略も激しさを増すやなぁ。そしたら怪我人も増えるし、武器や防具の需要も鰻登りぃ!稼げるときに稼いどかんのは社会に不誠実やからなぁ。きっちりやらせてもらいまっせぇ!」


 カカカ!と笑う銭形。先日城の両団から受けた依頼のことも勘定に入れ、手と頭の中で算盤を弾く。


 「規律やら柵やら何やらは知らんがなぁ、稼がせてくれるなら大事なお客様やぁ。大量の装備作成依頼・・・儲かりますなぁ!」


 他の部からの経費報告や決済書、領収書をパラララ・・・と流れるようにめくりながら目を通していく。経理としての仕事が終われば今度は治癒士としての仕事が待っている。それでも銭形は笑いを浮かべる。金を稼ぐというのは彼にとって何よりの原動力だからだ。


 「さ~て~と~ぉ・・・あぁ、長板の姉さんとこ行って『元気』渡さなあかんかったなぁ。今お昼近いし、調理場におるやろぉ。ついでに飯食ってくかぁ」


 独り言を言っている間に、大量にあった書類を捌き終わり席を立つ銭形。彼の能力によって『三業』の三人は一日中動いていられる。金は稼ぐが、使いどころを見誤らないのも彼の強みだった。


 「か~ね儲け~ぇ金儲け~ぇ。銭より愛すものは無し~ぃ。」


 下品な歌を歌いながら道を行く銭形に向けられる視線には一つも侮蔑や下種なものは無い。ギルド員たちは彼らの下で働けることをこの上ない名誉だと思っているからだ。中には『三業』に命を救われたものも少なくはない。


 「銭形マスターはご機嫌そうですね。また儲かったんでしょうね」

 「でもマスターも面白い方ですよね。金を貯めることはさほど重要視していない。金の行き来を楽しんでいるようだ」

 「『いくら正しかろうと金が無ければ駄目。いくら金があろうが正しく無ければ駄目』。それがあの人のモットーだからな。実にマスターらしいじゃないか」


 守銭奴で強者たち(プレイヤー)という嫌われる要素しか持っていないはずだが、彼は慕われる。

 目の前の幸福を不意にできる人間など、そう居ないのだから。

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