二大団長は企む
「鼓膜が破れるかと思ったわ・・・まだ耳鳴りが続いておる・・・」
頭痛がするのか頭を抑えるルビー女王。諫められた臣たちは全員土下座をしている。決意を新たにした後の姿としては情けない。女王は口では文句を言いながらも表情は心なしか笑っているように見える。
(功を挙げられず余所者の台頭で腐っておるかと心配しておったが、杞憂じゃったな)
満足そうに頷くと土下座を止めさせる。顔を上げる臣達にはまだ褒美を与えない。為政者、ともすれば暴君にもとられかねない尊大な様を見せる。
「ふん、それだけ力が余っておるなら結果を持ってこい。わらわの気は長くはないぞ」
最後に一言与えると踵を返して訓練場を去る。臣は即座にその小さな背を礼を取って見送る。小さくとも民を思い、臣を励ます女王の背はとても大きく見える。
「・・・ふぅ。落ち着いてくれたか。猛るのは悪い事じゃないが今ではない。温存をしておけ」
騎士団長が諫めるがまだ興奮冷めやらぬといった感じだ。頼もしいと思えど、多少の不安は残る。
「さて、訓練場に集まって女王との謁見だけとは思ってないじゃろうが、これからやる事を説明するぞ。・・・事前に通達があっただろうが、皆自分の装備は持ってきたか?」
騎士や魔術師は普段、一目見てわかるようにと皆同じ装備をしている。
騎士はシルバーアーマー(レア度 R)にシルバーソード(レア度 R)。
魔術師は魔道ローブ(レア度 R)と魔道の杖(レア度 R)。
といった感じで、全員が全員体格の差はあれど同じ格好をしている。
「これより装備の禁を解く。各々が持つ最強の装備をして任に着け。装備の差異による統率の乱れなぞ、お前らには決して無いと信じているぞ」
装備の幅が広がれば出来ることが増える分、今までとは違った連携が求められる。手の届く範囲を伸ばして足元が見えなくなるなどの愚は犯したくない。
「各隊は装備を一新した状態での連携や陣形の確認をしておくようにの。・・・強者たち(プレイヤー)にも負けない軍団となれ」
二人の団長は指示を飛ばし、訓練場を後にする。兵たちは敬礼で二人を見送ると即座に各隊に分かれて話し合いとすり合わせが行われた。
―――――――
城の廊下を歩く団長二人は、少し離れると訓練場が凄まじい熱気の中にあったことがわかり、顔を合わせて笑う。
「うまいこと発破をかけられたな。女王陛下にわざわざお言葉を貰った甲斐はあったな」
カイゼル騎士団長は一仕事終え、上手く事が運んだことに安堵する。強者たち(プレイヤー)の身勝手な行動と世界の滅亡の危機という多大なストレスによって燻っていた部下の心を奮起させることが出来た。
「気を抜く出ないぞ。装備の禁を解いたのが良い判断だったとなるかどうかはこれからの働きにかかっておる。・・・住民にもきちんと説明せんといかんしの」
やれやれと腰を叩きながらぼやくアダム魔術師団長。その瞳は老いてなお鋭く、先を見据える。
「住民への御触れ、各隊の戦力の確認、場合によっては隊の再編、『一点紅』への説明。・・・やらなければいけないことは山ほどある」
団のトップとして仕事は手を抜くはずもない。己が働きが女王への献身と民の守り、部下を導くものであるという信念のもとに二人は動く。
瀬戸際ギリギリにやっと本腰を入れたのか、と強者たち(プレイヤー)は思うだろう。そんな無思慮な彼らをこの世界の住民は鼻で笑う。
(場当たりでしか動かない向こう見ずなガキにはわかるまい。この滅亡の目前にこそ、我らが『秩序』を守らんとしてどうする。女王の下に束ねられた『軍団』こそが世界を支える柱なのだ)
世界しか守らない『英雄』はいらない。民の死体の上で立つ『勇者』もいらない。
(しかし、目に見える結果を出したのは奴らじゃ。人心が奴らに傾きはじめてもおかしくはない。・・・少し手荒な方法になってしもうたが、ここで我らも『威』を見せておかんとの)
『第三界』が攻略されたのはつい先日のこと。次の攻略まで少しの空きがある。
「次なる攻略は順当にいけば『第四界』だ。準備をしておかなくてはな」
「ほっほ。あの世界じゃな。それならばちょうど良いものがある。『第一界』を探索した部下が見つけたモノがな」
『第一界』の攻略後、黒狼が爆破して、強者たち(プレイヤー)はその後はあずかり知らぬとこちらに後処理や探索を投げてきた。瓦礫の街を汗水垂らしながら必死に見つけたモノ。
「文句は言わせまい。『アレ』は我らが見つけ、整備しなおした」
「一番の功労者の盗人は未だ『第十二界』。・・・ふっふっふ・・・」
二人の団長は悪い顔をしながら廊下を歩いて行った。二人の判断は住民側からするとほとんど落ち度はない。
『Unknown World』に生きている以上、ルールや規律は勿論ある。未だにゲーム気分が抜けない、現実を受け止めていない者のせいで住民との溝はどんどん深くなっていく。
その溝は何時しか亀裂へと変わり、修復不可能な分断になる。
決定的な決裂は双方に不利益しか生まない。お互いのズレを認識し、歩み寄りや話し合いが行われない限り、『滅び』は避けられない。
大局が見えていないのはどちらも変わらないのだから。