幼くても女王
「先の天よりの声にて知っておろうが、『第三界』の解放は成った」
鈴が転がるような女王の言葉は重く、芯まで響くように聞こえる。上に立つ者としての圧を感じる。
「・・・喜ばしい事ですな。これであるべき世界へとまた一歩近づきました」
声を返した騎士団長を女王がジロリと見やる。大きな圧のようなものが視線を飛ばしただけで発せられるが、慣れた物なのか騎士団長は顔色一つ変えない。
「・・・他の界から侵攻があるのに、今こうして私の呼びかけによってお前たちは集まっている・・・」
「・・・『六道』などの強者たち(プレイヤー)が警備を代わってくれておりますからの」
魔術師団長の返しが癪に障ったのだろう。紅く美しい髪は逆立ち、身体中から怒りの具現のような闘気が立ち上る。
「そう!わらわが憤っておる点はそこじゃ!騎士団魔術師団、両方で当たっている警備をたった数人で補える!おぬしら!情けなくはないのか!」
ダンダン!と地団太を踏む女王。王族としては恥ずかしい行動だが、育ちが良いのかあまり下品に見えない。代わりに騎士たちは情けなさから俯いてしまう者がいる。
「おぬしらは栄えあるブリリアント家直属のエリートたちじゃぞ!あの盆暗どもに遅れをとるなどと・・・!」
「・・・仕方ありますまい。奴らには『大いなる意志』の恩恵がある。地力の低さを引っ繰り返すほどの強さを持つ。・・・歪な強さを」
一部の例外を除き、現地民とプレイヤーのステータスには大きな隔たりは無い。しかし、彼らは異物。この世界に土足で乗り込んできた余所者。
「恩恵を授かる者なぞここでは千人に一人いるかいないか。奴らはそれを必ず持っている。・・・他に例を見ないほどの強さと凶悪さを持った恩恵を」
世界の滅亡が目前の今では強さが必要。この世界の一員として抗い、住民も守ると決意している身としては、その出鱈目な強さは羨ましくも妬ましい。
「・・・すまんの。おぬしたちを責め立ててもしょうがないのはわかっておる。しかし、わらわは上に立つ者として胸を張るためにふんぞり返るしかないのじゃ。おぬしらを踏みしめて立つことこそが、残された王族の務めじゃと思っておる」
絞り出すように弱くも、決して目は伏せず、凛と立つ女王。主君に情けない気持ちにさせてしまっている己の身を恥じる臣下たち。
「我らは奮起せねばならぬ。奴らにおんぶにだっこ、顎で使われる道理なぞ無い。奴らと我らはあくまで対等じゃということを知らしめる。ぬしらは民の誇るべき矛であり盾である。・・・そのことを忘れてはならぬのじゃ」
女王からのお小言や我儘を受けるとばかり思っていた者たちは、己の狭量を恥じた。女王は不甲斐ない自分たちへ激励の御言葉を下さった。そのためにわざわざこの場を設けてくれた。これで奮起しない者などここにはいない。
燻っていた心は燃え上がるような感動と、溢れんばかりの忠誠心によって踊り狂っていた。