城の訓練場にて
基底世界『ゾーン』の中央に位置する城。そこの訓練場に騎士団や魔術師団は集められていた。整然と並んだ騎士と魔術師。少しの乱れも無く統率される集団。間違いなく彼らは強いのが伺える。それなのに、前に立つ騎士団長や魔術師団長は満足していない。
「総員!敬礼!」
集団から一歩前に出ていた騎士が号令をかけると敬礼の姿勢をとる。
「騎士団総員2451名!陛下の命により参陣致しました!」
「同じく魔術師団総員3050名!陛下の命により参陣!」
二人の団長は手で軽く指示を出す。
「はっ!総員!休め!」
敬礼の姿勢から待機の姿勢に移る。休みの姿勢ながらも気を緩める兵は一人もいない。
「・・・陛下は急用が出来てな、終わらせ次第ここに来られる」
護国の剣にして弱者を守る盾。『不沈』カイゼル=グッドイヤー騎士団長は穏やかではあるが力のある声で喋る。曲がりなりにも騎士ならば『Unknown World』で誰もが志す存在とまで言われる男だが、その表情は暗い。
「謁見室や会議室ではなく、ここ訓練場に集めたのには、ちゃんとした理由があるでの」
『Unknown World』の魔術を愛し、愛された賢者。『叡智』アダム=レッドフルーツ魔術師団長が言葉を続ける。魔術が蔑ろにされがちなこの世界で、魔術一本で頂に立った男。先を見通すその目は気落ちしているのが伺える。
「お前たちがよくやっているのはわかっている。それらを否定するほど我らも耄碌はしていない。・・・陛下の気持ちもわからんでもないが・・・」
「そうじゃの・・・これからさらに気張らんといけん時にわざわざ呼び出すのものぉ・・・」
愚痴のように吐き出す二人。隠しきれない疲れが見て取れる。
「好き勝手言いよる・・・打ち首にしようか?」
コロコロと鈴が鳴るような声で物騒なことを言う女性が訓練場に現れた。
燃えるように紅い髪、抜群のプロポーションを生かした紅いドレス、見つめた物を燃やしそうなほど爛々とした紅い瞳を持つ、絶世の紅い美女がそこにいた。
その場にいた一同は慌てることなく、即座に臣下の礼をとり跪く。
「おっと、不敬でしたな。それでは騎士団長の座を後進に譲りますかな」
「ほっほ。儂もそろそろ隠居する歳ですのでな」
臣下の礼をとりながらもひょうひょうとする二人。
「この非常時に馬鹿を言うでないわ。おぬし達二人は塵になるまで使い倒すぞ」
ふんすとふんぞり返る陛下と呼ばれた女性。偉ぶろうとしている幼子、それでいて隠しきれない高貴さを感じる。「楽にしろ」と手を振ると、礼をとっていた者たちは頭を上げる。
「・・・それでルビー女王陛下、この場に騎士や魔術師を集めたのは何故ですかな?」
「ふん。わかっておるくせに。そこまで耄碌はしてないじゃろ」
不機嫌な様子を隠そうともしない女王の様子に騎士たちは顔を青くする。
これから女王よりお小言、もとい有難いお言葉を聞かされるために呼ばれたということに対して。




