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大いなる意志のヒの下に  作者: PERNOG
第二章 第三界 『暗君跋扈 クルーシブル』
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『第三界』攻略完了

 周囲の闇が慄く様に鳴動する中で『聖光龍』は縄張り確認と食事を兼ねて飛び回る。


 それに合わせて『第三界』の闇は薄れる。数メートル先も見えなかったのが、今では遠くまで見渡せるようになっている。


 灰鴉と門構姉は少しの間『聖光龍』の飛ぶさまに見惚れていたが、はっとしたようにそれぞれハイドと歯車の様子を見に走った。


 「やっぱり、駄目だったねぇ・・・まあ、よくやったよ」


 灰鴉は胸に剣を突き立てられ、身体中がボロボロになっていながらも、満足そうに死んでいるハイドを見て、一つ鼻を鳴らしてから軽く目を伏せた。


 「まだ攻略しなきゃいけない世界があるんだ。少し休んだら戻ってきな」


 踵を返して門構姉の方へ歩く。闇の支配が薄れたのなら無事に『第十二界(あの世)』に逝けるだろう。死体もそのうち消えるなら弔う必要も無い。また戻ってきたらこき使ってやるぐらいで良い。


 「灰鴉さん。あの短足は・・・」

 「死んでたよ」


 門構姉の問いに軽く答える。覚悟はしていたため取り乱しはしない。


 「そうですか・・・こちらも、もう」


 横で立ち尽くす歯車を見やる。血まみれで、ぶつぶつと何かを呟いている歯車。足元は彼女の血で砂の色が真っ黒に変わっている。


 「ステータスを確認しましたが、HPもMPもすでに0です。生きている方がおかしいですが・・・御覧のあり様なので」


 ぶつぶつと喋る歯車の口元に耳を近づける。


 「・・・眠い・・・疲れた・・・眠い・・・攻略・・・役に立たなきゃ・・・クスリ・・・」


 どうしたものかと思っている二人の上を『聖光龍』が通り過ぎた。反射的に上を見やると、何かが落ちて来るのを捉え、身構える。二人が臨戦態勢をとっても歯車はぶつぶつとつぶやくだけ。


 飛んでいた『聖光龍』から落ちた何かは、淡い光を発しながらゆったりと二人の元に落ちてきた。


 門構姉が軽く手で受け止めたそれは、『聖光龍』の鱗。一層輝くその鱗は、攻略を完了した証。


 「『第三界の礎』・・・!」


 鑑定したそれをすぐに歯車の前に持ってくる。


 「ほら!歯車!『第三界の礎』よ!攻略は成功したのよ!」


 光を失っていた瞳をこちらに向けた歯車。


 「・・・成功・・・眠い・・・攻略・・・終わり・・・?」


 「そうよ!あなたはやり切ったのよ!」


 その言葉を聞いたあと、ふと軽く笑った歯車は光の失った瞳をグルんと白目にし、その場に倒れ伏した。


 歯車の体は倒れる端から体はボロボロと崩れ去り、体が地面に着く前に塵となって崩壊した。


 「自分の能力とクスリとで酷使させた反動か・・・胸糞わるい・・・」


 後には歯車の使っていた大鎌が残るのみ。薄ら寒い光景だけが広がっていた。


 「・・・帰りましょう。凱旋とはいえないものになってしまうわね」


 闇が薄れたお陰で帰りの扉、世界を繋ぐ界扉もここからよく見える。


 歩き出した門構姉。ハイドの死体と残された大鎌をもう一度見た灰鴉は、舌打ちをすると門構姉の後を追う。


 砂地が広がる寒々しい世界を出口に向かってとぼとぼ歩く二つの影。

 そんな二人を祝福する様に空を飛び光を放つ『聖光龍』。

 二人にはその存在が、憎たらしく感じてしまい仕方なかった。

 ほんの僅かな達成感と、大きなやるせなさや喪失感を持って、『第三界』攻略作戦は幕を閉じるのであった。


――― 『第三界』も打破されるとは・・・まあ、おめでとう。次の足掻きはもっと面白いのを頼むよ ―――


 そんな二人の心中を察することも無いアナウンスが流された。


 アナウンスは『Unknown World』全体に流れるため聞き逃すことはまずないだろう。成果に喜ぶ者やアナウンスの不遜な態度に怒る者もいた。


 攻略を成功した二人は声を荒げずに黙々と歩き続けている。きっと帰ったら祝福の言葉を受けるであろう二人。

 無意識のうちに食いしばった口の端から血が流れているのにも関わらず、黙々と歩く。

 二人ははち切れんばかりの怒りと、無力感を秘めながら帰還した。



――― 『領域』のハイド 死亡 ―――

――― 『社畜』 歯車貞一 死亡 ―――


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