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大いなる意志のヒの下に  作者: PERNOG
第二章 第三界 『暗君跋扈 クルーシブル』
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あと一押しが遠い

 「まだか!?まだ孵らないのか!?」


 闇の傀儡と化した小唄薫の死体の奇襲を乗り切った。だが、抑えに歯車が戦っているため、卵を投げまわす効率は著しく落ちた。


 「鼓動は大きくなっているしモゾモゾ動いているからすぐにでも孵りそうだけど・・・」


 もう両手では抱えきれない大きさになった卵に耳を当てている門構姉。先ほど弟を惨殺されているにしては落ち着いている。


 歯車のいる場所からは固い物を打ち合うような金属音と、地面が陥没する音、車が衝突したような轟音が聞こえてくる。音だけでかなりの激しい戦闘が繰り広げられていることがわかる。


 「蜘蛛女の糸の守りにうちの『香り』を付けたとは言え、歯車ももちそうに無いね・・・時間が無いよ・・・!」


 恨めしそうに大食らいな卵を見やる。攻略のカギであろう存在だが、散々苦労を掛けられているのだ。恨み節の一つや二つは出てくる。


 「うちらだけだと闇が逃げていく速さに追いつけない。どうするよ?」

 「私は蜘蛛だからね。どちらかと言うと『待ち』タイプだし・・・」


 灰鴉と門構姉はハイドを見る。その視線は足に向けられている。

 ため息を吐く二人。


 「おいこらてめえらいい加減短足ネタを擦るないい加減にしないとぶち犯すぞ!」


 一息で怒りを吐き出すハイド。何度引き合いに出されたことかこの忌まわしき短い足は。

 だが今はそんなことで時間を取るのも惜しい。怒りを口だけで吐き出したハイドはすぐに攻略へと意識を向ける。


 「あと一回。あと一回で孵りそうなんだ。・・・灰鴉、闇を一か所に追い詰めることは出来ねえか?」


 「・・・あれだけの悪意を持っている闇を閉じ込めるまでの濃度・・・作り出せなくは無いけどねぇ・・・それが最後のうちの能力になるよ。二度は出来ない」


 灰鴉が軽く口にする。直接的に怪我はしていないが、延々と強力な悪意に曝され続けた精神は限界まで疲弊している。


 「足が使えない俺たちは・・・おい笑うな!真面目にやれ!・・・機動力が乏しい俺たちに出来るのは待ち伏せか誘い込み、それぐらいだろう。死体を操るのに夢中なのかこっちを狙う動きは微少だ。よっぽど卵をぶち壊したいらしい」


 「でも、今一番闇が集っているのはあの死体の側よ。結局は危ない橋を渡る必要あるんじゃない?」


 「そもそも最初っから危ない橋どころの次元じゃ無かっただろ・・・。考えてもみろ。『第三界』の全てを食い尽くした闇が、あの程度の規模に収まるわけねぇだろ。今は大人しくしてるだけで、闇はそこかしこにあるんだぜ」


 膨れ上がった闇を背負う死体が鮮烈に見えただけで、闇は変わらずこの世界の何処にでもいる。黒の中でより暗い黒が目立つだけで、闇は周囲に広がっている。


 「わかったな?それじゃあ、最後の作戦だ。これが空ぶったら終わり。そう思っとけ」


 ハイドから作戦を聞かされた二人は揃って微妙な顔をした。


 「良いのかい?この作戦、アンタの死亡は確定してるよ?」

 「失敗しても成功しても変わらず死ぬ。それでも良いの?」


 二人は作戦内容の是非は否定しなかった。だが、この作戦はハイドを『消費』する前提で組まれている。


 「あんなに攻略を嫌がっていたアンタが命まで張る?冗談にしか聞こえないね」


 「・・・まあ、死ぬのも痛いのも嫌だがな。ここ大一番での命の張りどころを見失うほど、曇っちゃいない」


 啖呵を切るハイド。カッコつけているがその性根は小市民のそれだ。顔色も悪いし膝は震えている。


 「早いとこ頼む。俺の気持ちが弱い方に流れる前に決めてくれや」


 ハイドに促された二人は無言で準備に取り掛かる。


 灰鴉は腰を深く落とし、番傘を背中で構え集中する。


 門構姉は頼まれたものを作るため糸を紡ぐ。


 『第三界』攻略のための最後の作戦は、歯車と死体との戦闘音を背景に静かに準備された。

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