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大いなる意志のヒの下に  作者: PERNOG
第二章 第三界 『暗君跋扈 クルーシブル』
60/100

ファインプレー

 剣が卵に迫るその時。四人は間に合わないと知りつつも決して目を逸らさなかった。

 卵が割られてしまった後、どう動くか、何をすればいいかという風に先を見据える胆力を持っている。今更ここに来てまで、結末を受け入れられずに目を逸らすような軟弱者はいない。


 そして四人は、剣が卵に当たる瞬間、剣の腹が何かに殴られるように軌道をずらされ、盛大にからぶる様を見た。


 「!?歯車っ!」

 「っ。了解」


 一瞬、呆然とした一同は瞬時に意識を戻し、卵を回収する。再び剣が振るわれた時には歯車が卵を回収し灰鴉に投げ渡した。灰鴉は卵を受け取り、安堵の息を吐いた。

卵を安全圏へと移した歯車は大鎌を構え、首無しの小唄薫の死体へと向く。


 「今のは、愚弟の・・・」


 門構姉が呟いたのと同時に、少し遠くで何かがひしゃげる不快な音が聞こえた。苛立ちをぶつけられる様に何度も何度も、叩きつけ踏み潰されるような音。


 「まだ生きてたのか・・・何にせよファインプレーだ・・・!」


 ハイドは冷徹ながらも最大級の賛辞を贈る。何もかもが台無しになりそうだったその時に、ここ一番の働きをしてくれた男。深手を負い、足手まといになるからと自らリタイアした『怠惰』な男。

 きっと今まではこちらに注力していたがため、耳障りな猿集団を消した後、とどめを刺し損ねていたのだろう。聞こえてくる音からして、徹底的にやられているのが伺える。闇からしたら唯一の天敵を屠れる決定的な瞬間を邪魔したのだ。その苛立ちを一身に受けている以上、悲惨な目にあっているだろう。


 「そいつは細切れにしちまいな!下手に切り離しても卵に干渉できるなら、指一本でも闇は利用する!」


 卵を落とさない様に傘で回しながら灰鴉は叫ぶ。攻略の上で今一番の脅威となっている味方の死体。罪悪感や倫理観よりも攻略を優先させる。それが報いることだと信じて。


 「・・・私はこれの対処をします。卵は任せました」


 ただ殺すだけなら簡単なことだ。真っ二つに切ればいい。だが、堅牢な甲冑を着込んだ肉を細切れにするのは中々難しい。しかも自分の得物は鎌だ。大雑把に切断することには長けてもいても取り回しは良いとは言えない。


 「今すぐに行動不能には出来そうも無いので。そちらにちょっかいを出させないようにはします」


 切り込んできた剣を鎌で掬い上げるように受け流し、無防備になった腹を蹴りつけ距離を離す。闇に操られた死体の力は強く、安易に受け止めれば吹き飛ばされるだろう。


 残る三人は歯車にこの場を任し、卵を持ってその場を離れる。追い縋ろうとした死体の前に歯車が立ち進路を塞ぐ。


 苛立ちに蠢く闇。より一層死体を振り回すように操る。癇癪を起した子供が手に持つ人形をぞんざいに扱うが如くの猛進。


 (走り回るのは血を流し過ぎるので足止めを買って出ましたが、これも中々厳しい)


 自身から流れる血で滑る大鎌をしっかりと握りなおす。しっかり持って、しっかり受け流さないと、得物ごと腕を持ってかれそうになるほどの力。


 (私が死ぬか、あの体がもたずに崩壊するか・・・。御三方、早めに頼みますよ)


 自分が死ぬことは厭わないが、攻略失敗は『アディクト』の沽券に関わる。その為に全身全霊を尽くし、血の一滴まで枯れ果てようとも己が仕事、役割を全うする。


 『社畜』の二つ名を持つ彼女は、決死と滅私の心を持って、再び死体と激突した。



――― 『怠惰の大罪』 門構 王 死亡 ―――


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