脱落者
見間違いかと思うほどの弱弱しいものだったが、確かに見た。
今までは小唄薫の光が強く、目に入らなかったが、光が弱まった今、目を凝らさなくても見える。
「目測で200メートル!何か光るものを発見!あそこまで走るぞ!」
ハイドはまだ痙攣している首なし死体を担ぐと、周りで呆けていた面子に発破をかけた。重荷になろうがまだ灯りとしての役割を果たせる以上、死体だろうが使える限り使う。
「門構弟は姉の肩貸せ!灰鴉は二人を守れ!ヤク中は俺の横に来い!灯りが切れる前にあそこに行くぞ!」
「あいよ!」
「う~ん・・・おねえちゃんを任せていいかな~?僕もう動けないや~・・・」
間延びした声でギブアップを告げる門構弟。
「こんな時に何を・・・!?・・・アンタ・・・」
ケツを蹴り上げても動かそうと思っていた灰鴉は門構弟の方を見て、息をのんだ。
先の襲撃でやられていたのは小唄薫だけではなかった。暗くて見えなかっただけで門構弟の腹にはこぶし大の穴が何か所も空けられ、無残な姿をさらしていた。足を見るともう闇に食われ始めており、その場から動こうとも動けないようだ。
「おねえちゃん狙ってたみたいで~どうにか割り込んだけど~・・・ゲホッ・・・やられちゃった~・・・」
じわじわと闇に食われ、致命傷を負っているにもかかわらず、いつも通りの門構弟を見据える。手でシッシッと先へと促す姿に灰鴉は何も言わずに門構姉の襟首を掴み持ち上げる。門構姉は既に元の人間態に戻っていたため運ぶのも容易だ。
「会えたらまた会おうね~・・・」
門構弟の別れの言葉に姉は運ばれながらもサムズダウンで返す。一行が先に行く姿を見てその場にポスリと座り込む。
「あ~あ・・・また『第十二界』行きか~・・・でも、闇に食われたらしばらくはゆっくり出来るかな~?」
すぐに座っているのも怠く感じた彼は砂地に寝ころぶ。足だけでなく全身に闇が覆いかぶさるように侵食し始めた。
「ま、僕が完全に食われるまで~あっちから気を引くぐらいはしてあげようかな~」
寝ころびながらも自身の体力や魔力を絞り出し、様々な猿を呼び出した。
手にシンバルを持つ猿。サイリウムを持つ猿。体に電飾を巻き付けた猿。胸板がドラムになっている猿。etc.etc。とにかく大量に目立つ猿たちを呼び出す。
「さいごにどんちゃん騒ご~。反省とか後悔するのもめんどくさいしね~」
「ウッキー!」シャンシャン♪「ウッホホホー!」ドン!ドン!「ホギャー!」ドンチャン!スチャラカ!
盛大に一行を後押しする門構弟。闇に包まれた世界に似合わない愉快な音が響き渡っていた。




