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大いなる意志のヒの下に  作者: PERNOG
第二章 第三界 『暗君跋扈 クルーシブル』
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『第三界』の洗礼

 「『勇者戦隊』が『光の勇者』!小唄薫!敵を滅ぼす!」


 「  (ファイア)(ライト)(バレット)  !」


 今しがた猿が連れ去られた方向に、小唄薫はまぶしく光る火の弾を撃ち出した。

 何かに当たった様子も無く、火の弾は数メートル先で闇に呑まれて音も無く消えた。


 「魔力の無駄遣いはやめろ!お前が先に力尽きるのが一番最悪なんだぞ!」


 咎めるハイドであったが、先の光景から今に至るまで、疑問や違和感を抱いていた。


 (何にも着弾しなかったのはわかる。地面と平行して撃っていたし、サソリどもが避けたのかもしれないからな。だが、その後だ。「何故唐突に消えた?」それもあんなに「短い距離」で?)


 ハイドは自分の能力の仕様上、自分から周りの物体への距離を測ることを徹底付けている。先ほどの魔術はたかだか10メートル行くか行かないかで消えた。


 「(バレット)」の魔術は中~遠距離戦に適した魔術であり、物にぶつからなけらば少なくとも数十メートルは軽く飛んでいくはず。

 さらに門構姉からの『デスストーカー』の情報。防御と隠密性には優れているが、動きは早く無く、群れで行動していると言っていた。


 (俺の今のルール上、名乗りを上げてから撃ったとしても、猿が闇に消えるか消えないかのタイミングで魔術は放たれた。群れていて動きが遅く、防御に優れているなら「避ける」ことなんてするのだろうか?尾の大きさから考えるとトラック以上の大きさを誇るサソリが、だ)


 考えているうちに、『ディーゼル猿人』は残らず闇の中へと消え、灯りは小唄薫のものだけになってしまった。


 「猿の追加だ!早くしろ!勇者様の為に働くのだ!」


 この状況を理解できない程、頭が悪くない小唄薫は門構弟の入っている駕籠を揺すり、猿の補給を急かした。


 「そんなにポンポン呼べないよ~・・・お猿さんの数にも限りはあるし~・・・」

 わたわたと慌てる門構弟。『猿駕籠』の猿もぶるぶると震えている。


 灰鴉は肩で息をしながら膝をついてしまっている。消耗が激しく、能力が安定していないようだ。徐々に闇が侵食してくるのがわかる。


 間髪入れずに闇の中から何本ものサソリの尾が迫る。が、ハイドの領域に侵入し動きがビタッと止まる。


 「『アディクト』の『社畜』!『歯車 貞一』でござーい!」


 硬直したサソリの尾を一息のうちに全てを叩き切り落とす歯車。名乗りを上げるのもあまり枷となっていない。


 歯車はまだ余裕そうだが、ヤク中にずっと矢面に立ってもらうのはリスクが多すぎる。薬が切れたらどんな行動をとるのかは想像に難くは無い。早急に現状を打破しなくてはならない。

 (暫定目的地まではまだ10キロぐらいある!駆け抜けるほどの余裕も無し、そこが行くべき場所なのかもわかってねぇ!・・・兎に角どこでもいい!一度、休むための空間が必要だ!)


 「門構姉!そんなにもたなくてもいい!拠点を作れないか!?」

 「・・・内側から外に向けて壁を作り続ければ、闇の侵食を少ししのげるかも。その為には周りの露払いをお願い」

 「ならば私の出番だな!『勇者戦隊』!『光の勇者』!『小唄薫』!再度参る!唸れ我が愛剣『光火剣』!」


 言うが早いかカブト虫は腰に下げた豪奢な剣を抜き放つ。刀身は火と光に包まれ、周りをさらに明るくした。


 「蹴散らしてくれる!『光円斬(ライト・リング・スラッシュ)』!」


 カブト虫が剣を回すように振る。すると光の輪が波紋のように一行の周りから広がって行き、闇を明るく払った。


 「今だ!頼むぞ!」

 「来なさい。『あやとり蜘蛛』」


 門構姉の足元からわらわらと何百匹もの蜘蛛が湧きだした。その蜘蛛の脚の先は人間の五指のようになっており、ワキワキと動かす様が鳥肌を誘う。

 蜘蛛は尻や口から糸を出し、編み込むようにして一行の周りに壁を作っていく。

 あっという間に、一行を守るドーム状の蜘蛛糸の壁が完成した。


 門構姉はさらに腹がパンパンに膨れた蜘蛛を呼び出した。


 「ご苦労様。それじゃあ『糸海蜘蛛』たちは壁を内側から押し出すようにどんどん厚くしていきなさい・・・ふう、これで、しばらくは・・・」


 一度に大量に使役モンスターを呼び出し、瞬時に糸の壁を作り上げ、補強も続けさせている。


 「蜘蛛に任している間だけでもいい。とにかく皆全力で休め、と言いたいが・・・意識のすり合わせの時間だ」


 ハイドは灰鴉に視線を向けると他のメンバーも灰鴉の方を見た。


 「灰鴉、まずはお前だ。お前が感じていることや、疑問に思っていること、何でもいいから共有しろ」


 灰鴉を詰めるハイド。灰鴉は青い顔をしながら顔を歪ませる。


 「正直に答えろよ。守りに陰りが生じているのは何故だ?様子がおかしいと感じているのは俺だけじゃないはずだ」


 モンスターの襲撃は想定していた。その為に猿に先行させ、どんなことにも対応出来る陣形を意識していた。だが、いくら数が多く、強いとは言っても『普通』のモンスターに突破されるほど灰鴉の守りは弱いのか?


 さらに、攻略が始まってからの消耗が早すぎることにも疑問が生じていた。『一点紅』から頼りにされるほどの能力を持つ者が、だ。


 「・・・わかったよ!一度に色々聞くんじゃない!耳が腐るわ!」


 灰鴉は破れかぶれといった感じに頭を振り、喝を入れるために自身の頬を張って、ドカリと座る。


「・・・能力は絶好調さ。普段以上に冴えわたっているよ」


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