暗中模索
「それにしても何も見えん!こんなにつまらないところだったのか!」
遅々として進展しない状況や無言の圧に耐えられなくなったのか、より一層光を強くして小唄薫は地団太を踏む。無神経さに眉を顰めるがこの行軍が苦痛であることには変わりない。わかりやすく感情を発露する存在が居ることは逆にこちらの平静を保つのに一役買う。
「実際、元はどんな世界だったんだ?俺ここに来たこと無いんだよなぁ」
ハイドが会話のネタを思いついたのか話を振る。
「確か前は『聖光龍』とか呼ばれる支配者が居たんじゃないかい?体から常に温かな光を発していてこの闇に包まれた世界を照らしていたとか」
「ここの支配者・・・第三天ってやつか。・・・今は光が全く無いってことは・・・」
「既に死んでるわね。この世界の何処にいても居場所がわかるってぐらい目立っていたらしいから。隠れているって訳でもないだろうし」
門構姉曰く、以前の『第三界』の呼称は『光明聖態』。支配者であった第三天の下、穏やかで牧歌的な雰囲気の世界だったと言う。モンスターたちは光を嫌うため大人しく、闇もあくまで暗がりとしての役割しか果たしていなかった。
それが今では『暗君跋扈』。闇に乗じることが出来るモンスターのみ生き残った世界。闇そのものもこちらを蝕む脅威となっている。
「んじゃあ『第一界』の時みたいに新しい支配者。ここだと第三偽天になるのか?そいつを倒せば良いんじゃないか?」
「『一点紅』は目的が分からないと言ってただろう。第三偽天の足取りがつかめないどころか、どんな奴かも分かってないんだよ」
手がかりになるような情報はあれども核心には至れない。結局は当ても無く彷徨うしかないみたいだ。
「あー・・・ならどこかに拠点になりそうな場所とかは?方角と距離さえ知ってるなら、今からでもそっちに行けるぞ」
ハイドの言葉に首を振る歯車。
「駄目だと思いますよ!そこにいたうちの売人とは連絡が取れてないんです!『第十二界』でも確認されなかったらしいので、もしかしたら未だに囚われているのかもしれないですね!」
ハイドはぼりぼりと頭を掻くと懐から丸まった羊皮紙を取り出し中を見た。どうやら事前に持たされたこの世界地図のようだ。
「ってなるとこの地図も役には立たねえか。歩いた方角と距離的に今は森に居るはずなんだが・・・」
「森どころか木一本生えてない。足元はずーっと砂地が続いてる。・・・前は平原とか野原とかで自然が溢れていたのにね」
軽く確認するように足元を踏みしめ、砂をまき散らす。砂に混じって生き物の骨のような欠片が見える。
「このまま何の目標も無しってのも嫌だな。・・・おい、その『聖光龍』って奴のねぐらとかはわかんねーか?そこに言ってみようぜ」
門構姉は地図を覗き見ると地図の端にある山脈を指さした。
「ここ。『龍ヶ峰』って呼ばれていた山ね。ここの山頂に居たはずよ」
「地図上だと行く途中に町やら森やら湖があるはずだが・・・気にしなくていいみたいだな。・・・ここから北北西に12キロメートルぐらいだな」
「光を絶やさずに陣形を保ったまま、モンスターや闇に気を張るべしだね」
「ふっ!『聖光龍』だかなんだか知らんが、真に輝くのはこの光の勇者様よ!私がここの支配者になるべきかもしれんが、こんなしみったれた世界はいらん!さっさと攻略するぞ!」
悠然と歩き出したカブト虫が陣形を崩さないように追いかける。全員の足取りはほんの気持ち程度軽くなったように見えた。