イワンの馬鹿
「いやいや、絶対的な私はいつでも美しい。そんな究極芸術といえるものを下らない布で隠すなど・・・そんな罪なことは出来ないさ」
やれやれと金髪と一物を揺らして尊大に話すイワン。まるで話が通じないことに他の面々は頭痛がするのを抑えられなかった。
「・・・それで?扉を吹き飛ばしてまで何をしにきたの?」
いつまでもこの場にいてほしくない『一点紅』はイワンに話を促した。
「むん?遠慮せずに絶対的な私に見惚れていいのに・・・無欲な奴め」
イワンは無造作に何かをこちらに放り投げた。反射的に受け取る。それは淡い光を発する鍵だった。訝しむ『一点紅』だったが見る見るうちにその表情は驚愕へと変わっていった。
「あ、あなた・・・これ・・・!?」
「ふむ、『第二界の礎』とやらだ。集めていたのだろう?」
その言葉に唖然とする面々。あんなにも入念に準備し、万全のサポートをしながらもやっとのことで攻略したのに。別な世界とは言え、目の前の男は事も無げに。
「絶対的な私は優雅に過ごしていたのだが、邪魔をするゴミがいてな。軽く掃除してやったらそれを落としたのだ」
髪をかき上げふんぞり返るイワン。
「ではな。絶対的な私は静かになった『第二界』でゆっくりしておるでな」
ふんふんと鼻歌を歌いながら周りを気にせず退室するイワン。未だに驚愕から帰ってきていない会議をしていた面々は唖然とした表情のまま見送った。
「・・・イワンの、馬鹿めが・・・」
魔術師団長がポツリと漏らした言葉は今ここにいる全員の心の内を代弁した一言だった。
情けなさややるせなさ。好き勝手動く者への怒り。様々な感情が入り乱れながらも、絶対的な強者に対してのある一定の敬意をもってしての評価。それが詰まった言葉だった。