第一界 完全攻略
「さっきも言ったけど、その面はネモから取った心の弱さだ」
「君たちによって討ち滅ぼされた方も併せて、どちらも『艦長』だよ」
床に転がるネモの面を見る。今にも目を開けて喋り出しそうだ。
「酒に逃げたどうしようもない男さ。気楽に処理出来るだろう?」
『偽善者』の意図を理解してしまった一部はさらに渋面を深める。
「・・・これを壊さないと、第一界の完全クリアにならないのね」
「ならばすぐにでも壊さなければ・・・!」
騎士の一人が面を壊そうと動くが、他の騎士によって止められる。
「つくづく趣味が悪いのね・・・!」
『一点紅』は血を吐くように悪態を吐いた。拳を握りしめどうにか怒りを抑えようとしている。
「ん~?攻略をするには『核』を破壊しなければいけないのは織り込み済みだったんじゃないの?」
煽るように問いかける『偽善者』を睨む『一点紅』。
「『艦長』ネモは確かにいつもは酒ばかり飲むろくでもない男でした。ですが、今回の攻略に必要な情報を与えてもらい、大いに役に立ってもらいました」
「再び第一界の支配者に返り咲くためと思っていたが・・・後ろめたさから協力していたとはな」
騎士団長も睨みながら話を続ける。
「そして、その弱い心ながらも我々に協力してくれた『艦長』を殺せ、と。・・・二度も同志を殺せと言うのか・・・!貴様は・・・!」
率先して面を破壊しようとした騎士は青い顔をしながら尻もちをついた。
目の前の面はただの面ではない。自分たちと同じく、敵によって全てを奪われながらも攻略の協力をしていた。謂わば仲間のような存在だということに気付いてしまった。
「黙って雲隠れしない分性格悪いわ・・・!」
「いやいや、言ったでしょ。これは報酬さ。君たちが第一界に打ち勝ったという、ね。さあ、早く!君たちの手で!完全攻略を!」
戸惑う周囲を振り払うように騎士団長は面を手に取り、剣を一閃。面を真っ二つに切り裂いた。面は表情も変えずにゆっくりと消えていった。
「GOOD JOB!これで第一界完全攻略だ」
我慢ならなくなった騎士が『偽善者』に切りかかるが軽く躱されてしまい、返すように放たれた軽い裏拳によって吹き飛ばされ、気絶者の仲間入りした。
「僕の仕事はこれで一応終わりかな?僕は負けたけど、あと11個世界があるからね」
『偽善者』はうやうやしく礼をすると顔だけこちらに向けて首を傾げた。その動きがいちいちこちらの神経を逆撫でしてくる。
「それじゃあ。君たちの足掻きに、幸あれ」
ふっ、と『偽善者』は消えた。それと同時に気を失っていたものがうめき声を上げながら起き始めた。
とどめを刺した騎士団長の砕かんばかりに握られた拳の中には第一界の攻略完了を意味する『第一界の礎』が握られていた。ネモの名を刻印されたコンパスの形をしている。これを目の前の球体に捧げれば第一界の支配権はこちらに移る。
「クソッ、クソッ!・・・貴様らが・・・!」
やりきれない思いの振り下ろしどころを見失っている騎士団長。周りの様子を見ると他の騎士や魔術師も似た感じだ。
第一界を攻略し、光明が見えたと思っていたのに、心苦しい真実と、後味の悪い結果を持ってきたこちらの敵、『偽善者』。
勝利の余韻に浸らせず、これから先のことを考えたくも無い心情になった。