一枚剥くと
「第一界を攻略するにあたって、貴方から教えてもらった情報は大いに役に立ったわ。詳細なMAPを知っていたおかげで、最短距離で最適ルートを行けた」
「第一界から逃げてきた元支配者というのも頷ける・・・そう思っていたわ」
目の前の男の動きを見逃さないように睨みつけながら話す『一点紅』。
「黒狼が中枢の『核』を見なければね」
「・・・な、なにを、見たのかな・・・?」
男は片手で顔を覆いながら問いかけた。
「しらばっくれるのもいい加減にしたら?・・・『核』は人間だった。身体中に管が生え、機械と繋がれている男、『艦長』ネモが居たわ」
びくりと男の体が揺れる。
「二人も支配者が居るはずもないし、『核』の方は破壊された。・・・残ったのはこんな場所にいる怪しいあなたの方・・・。さあ、質問に答えなさい」
プルプル震える男に再度疑問を叩きつける。
「貴方は誰・・・いや何なの?」
「・・・フフフッ・・・」
男は軽く笑うと瞬きをする間もなく見た目が変化した。顔を覆う手はそのままに、船乗り風の恰好が黒のタキシード姿となり、マリン帽はトップハットへと変わった。
覆っていた手をどけるとネモの顔もその手に併せてずれ、真っ白い笑いを浮かべる仮面が顔を覗かせた。
「いやー、おめでとう。よくあの世界を攻略出来たね」
片手でくるくるとネモの面を弄びながら軽く言う男。声には緊迫感の欠片もない。
「いろいろ聞きたいことがありそうだけど、最初の質問に答えようか。僕は『偽善者』。第一界を担当していた、君たちの敵さ」
その言葉に騒めく周囲。そんな声に気づいていないように振る舞う『偽善者』。
「貴様が・・・!我々の世界を脅かすモノか・・・!ここまで何をしに来た!『世界』を滅ぼしに来たのか!」
剣を向けすぐにでも切りかかりそうな騎士団長に対して肩を竦める。その動作一つ一つがこちらを小馬鹿にしている感じがしてますます周りは殺気立っていく。
「ちゃんと答えてあげるから待ってなさい」
騎士団長は今にも憤死しそうなほどに怒っている。額の青筋が今にも千切れそうだ。
「ここまで来たのは・・・少し拝んどこうと思っただけさ。君たちが有難がっているコイツをね」
球体に指を差しこともなげに言う。特に厳重にしていた警備をものともせず散歩でもするような気軽さで、こちらに王手をかけていることに『一点紅』たちは冷や汗を流した。