事件は足元で起きている
――― 基底世界 『ゾーン』 ―――
『Unknown World』の中心世界であり、他の十二ある世界へと通ずる玄関口。今では他の世界から侵攻を受けている悲惨な世界だ。
この世界の中心にある城の地下に強者たち(プレイヤー)や現地民たちが死守するものがある。
第一界の攻略による疲れをおして『一点紅』は騎士団や魔術師団を引き連れて、地下へと降りて行った。
長い階段を転がるように駆け抜け目的の部屋に着くと勢いよく扉を開く。
広く飾り気は無いが、どこか気品を感じさせる部屋の中央には不思議なものが浮かんでいた。温かな、目にも優しい光を発しながら明滅する球体。大きさは野球ボールほどなのに、厳かな存在感を醸し出している。
本来ならその球体を安置するためだけの部屋だが、入室は一部を除き固く禁じられている。
入り口だけではなく階段の途中にも兵を配備している。にも関わらずに『一点紅』たちがここに来るまでにただの一人として兵を見ていない。
「あとで仕置き必要か・・・」
騎士団長は部屋の片隅で重なり合うように倒れている兵を見て顔を顰める。供にした騎士がそばにより確認すると息をしている。気絶をしているだけなようだ。
「・・・それで、何をしているのかしら?」
球体の前に居た者に声をかける。
球体を眺めていた者はゆっくりと振り向いた。手に持っていた瓶をかたむけて酒を飲む。くたびれた船乗りのような男。
「『艦長』ネモ・・・貴様!何故ここにいる!?」
第一界の元支配者。第一天『艦長』ネモ。第一界を追われて落ちぶれ酒浸りになっていた男。落伍者として煙たがられていた男がそこにいた。
「ひっく。お、揃いで。こ、攻略は無事に済んだのかい?」
「・・・『大罪』の黒狼がやってくれました。・・・彼の命と引き換えですが」
ネモはそれを聞くと震える手で拍手をして称えた。
「お、おお!おめでとう!さ、最小限の消費で抑えられてよかったのう」
その言葉に怒りを表したのは同じ強者たち(プレイヤー)の『一点紅』だけ。
現地民たちは気まずそうに目を逸らしながらも、心では『迷惑をかけていた犯罪者一人で済んだ』と思っていたからだ。
「っ、彼も共に戦った同士です!侮辱はしないでいただきたい!」
「べ、別にいいじゃろ?ど、どうせ生き返れるんじゃし」
また怒りに声を上げそうになった『一点紅』は、落ち着く様に一回深呼吸すると本来の目的を果たすために気持ちを切り替えた。
「ふーっ・・・ネモ。私たちはあなたを探していたのよ」
「こ、こんな酔いどれに何のようかな?も、もう第一界の攻略も済んで用済みじゃろ」
震えるネモを騎士団と魔術師団が包囲する。手にはそれぞれ得物が構えられておりいつでも攻撃できる態勢だ。
「な、なんじゃ。も、物々しい雰囲気じゃな」
「攻略を終えても気を抜けないことには変わりないし、すぐにでも次の界の対策を練りたいんだけども・・・。時間もかけたくないし単刀直入に聞くわ」
『一点紅』はネモを睨むと叩きつけるように言った。
「 あなたは誰? 」