黒の浄化
「・・・『第一界』の攻略が今回の主目的。『核』だけ破壊しろって命令じゃないよなぁ?」
黒狼は痛む体を奮い立たせて、一匹のゴキブリを生み出した。黒々として、触角が導火線のようなバレーボールぐらいの大きさの丸々としたゴキブリ。
『こ、黒狼・・・何をするつもり・・・?』
「 火 」
誰でも使える魔術を使い、黒狼は生み出したゴキブリに火を点けた。
「・・・お前らも把握していたと思うが、今までの道中で俺は『種』を仕込んでいた。それらの主目的は物量による妨害。・・・それで済めば御の字だったんだが・・・・」
シュウウと導火線がだんだんと短くなっていく。黒狼はずっとかけていた透明化を解いた。ここ中枢がある部屋の中でも数百、否数千にも及ぶ球形のゴキブリが出現した。
「俺は盗人だ。こんな真似はしたくは無かったが・・・俺は今をやり過ごすために、攻略を成功させる・・・泥臭く、いや煙臭くなろうがな」
機械兵たちが異常を感知し、ゴキブリを攻撃しようとしたが滑って転んだ。いつの間にか床一面に油が撒かれていた。
「可燃性の高い油を垂れ流す『油田虫』。そして火を点けると爆発する『黒爆球』の大盤振る舞い・・・!ここだけじゃなく『第一界』全体に配置させてもらっている・・・!」
異常の大元である黒狼の排除を優先した機械兵たちや罠が、その存在を消そうと集中砲火を開始しようとした。が、今度は『第一界』側の反応が遅れた。
「残念、もう遅い。・・・っは!ざまあみろ。ここを踏破したのは清廉なる騎士様でも偉大なる魔術師でもねえ・・・この俺!盗人の黒狼大蛇だ!」
黒狼の目の前でゴキブリが爆ぜた。
「『黒の浄化』。食らいやがれ」
瞬間『第一界』全体は爆発と炎に満たされ、一切合切何もかもが吹き飛ばされた。
―――ピンポーン―――
爆発で視界がいっぱいになっている『二つの道』、疲労困憊ながらも行く末を見守っていた『一点紅』にも、今回の攻略には参加していない他の強者たち(プレイヤー)にも頭の中にチャイムが鳴り響いた。
―――『第一界』の攻略おめでとう!君たちの次なる歩みを楽しみにしておくよ―――
何者からの祝福と激励の言葉。衰退し続けると思っていた攻略に一筋の光明が見えた気がした。まだ一つ目。されど一つ目。
攻略・・・世界の終わりを阻む歩みはやっと一歩踏み出したばかりだ。
――― 『嫉妬の罪』 黒狼 大蛇 死亡 ―――