虫退治
「ぐ・・・寒い・・・?・・・冷凍ガスか!」
飛来したものに気付き透過でやり過ごしたが、寒さの軌跡に触れてしまい動きが鈍る黒狼。咄嗟にゴキブリを動かそうとしたが悉くが凍らされており、新たに生み出さなければ役に立ちそうもない。
『黒狼!四時の方向!』
通信の声を聴いた瞬間にその場を離れた。命は拾ったが機動力の要の一つである羽を片方吹き飛ばされた。
「ぐうう・・!寒いし痛いしで最悪だ・・・!」
泣き言を零しながらも新たにゴキブリを口から吐き出す。
燃える炭のようなゴキブリが大量に湧き出した。
「寒さに強く熱を放つ『不凍油虫』!体力消費よりも寒さがキツイから出し惜しみはナシだ!」
周囲に熱をまき散らしながらゴキブリは縦横無尽に飛び回る。空を飛べなくなった黒狼は地上での移動しか出来なくなったが、目標は目の前にまで迫っていたのでここが正念場と状況を打破できるゴキブリを繰り出し活路を得ようとした。
「がはっ・・・ゴホッ・・・お、俺のゴキブリたちが・・・!」
しかしそんな黒狼に無慈悲な機械たちは更なる追い打ちを仕掛けていた。
飛び回っていたゴキブリは床に落ちひっくり返っていた。黒狼自身にも大きなダメージを与えている。周りをみると霧のようなものを噴き出している機械が見える。
「ゴホッ、さ、殺虫剤も噴霧してやがる・・・!ピンポイントでメタってくるのかよ・・・!」
『足を止めるんじゃないわよ!前に飛びなさい!』
焦ったような通信が聞こえる前に、嫌な予感が働いた黒狼は目の前の中枢に向けて大きく跳んだ。黒狼の頭を狙っていた機械兵の攻撃は黒狼の右足を切り飛ばすに済んだ。
「あぐうう・・・ちくしょう!何で俺がこんな目に・・・!」
『ボーっとするな!早く『核』の位置を探りなさい!』
『上の方が監視の目が若干多いわ!上を重点的に探しなさい!』
中枢に飛び移った黒狼は片足を切り飛ばされたとは思えないような速さで這いまわった。
「どこだ・・・!?どこにある・・・!?ああ、帰りたい・・・!おい、早く見つけてくれ!」
攻撃や罠がより一層苛烈になり、黒狼の回避能力の高さでも徐々に掠るように被弾が増えてきていた。三度目の致命的なダメージを負うのは時間の問題だろう。
『まだ見つからないわ・・・もっと高い位置に行きなさい!』
『罠が多すぎる・・・把握しきれない・・・!』
『二つの道』もフルで能力を使用し続け、限界に達しようとしていた。黒狼からは伺い知れないが二人は血涙や鼻血を垂れ流し、端正な顔を痛みにより歪めていた。
『一点紅』も能力を長い時間使い続けられない。黒狼単体に集中しているとはいえ、歌い続けるのには多くの体力を消費する。
誰も成しえていなかった第一界への中枢への侵攻。今まさに王手へと手をかけかかっている攻略組。しかし黒狼も後方支援組にも王手がかかっていた。