中枢に近づけ
飛び出した黒狼を打ち落とそうと無数のレーザーや重火器が襲う。
「うっとおしいなぁ・・・!」
自身の機敏さと透過能力を使い、攻撃を避けながら、ゴキブリを使役し機械兵や砲塔の動きを阻害する。
「鋼の硬度をもつ『メタルゴキブリ』だ!いかにパワーが高かろうが発射口や関節部分に紛れさせたらどうだ!?」
得意そうに卑劣な手を使う黒狼。だが、機械兵の動きは変わらず、レーザーは無慈悲に乱射された。外に配置されていた機械兵やトラップとは強度や性能が段違いだ。
『さっさと中枢に近寄りなさい。あなたの見るに堪えない姿をこれ以上見たくないわ』
『そうよ。早くしなさいよ』
無情とばかりに黒狼を煽る『二つの道』。見た目美少女な男に罵られて悦ぶほど倒錯していない黒狼にとって二人の言葉にはイラつきしか覚えない。
「鉄火場にいる奴に浴びせる言葉じゃねえだろう・・・!もちっと気遣え!」
『いやだわユウ。ゴキブリが何かキイキイ鳴いているわ』
『虫語はわからないわね。アイ』
「帰ったらゴキブリまみれにしてやるよ・・・!」
ギチギチと顎を震わせて怒りを露にする黒狼。しかしその動きに翳りは見えない。ゴキブリを盾に使えず、阻害にも大して役立てないとわかるや否や、残像を生むほどの機動力で飛び回り、透過能力は必要最小限に使用する戦法に切り替えた。
『あと20メートル。ガス欠になるとかはやめなさいね』
「『一点紅』からのバフもある。まだいける」
自信ありげに啖呵を切る黒狼だが、外の機械兵にけしかけていたゴキブリの数が減っていることを感じ取っていた。あと数分もしないうちにここまで押し寄せてくるだろう。
(『種』はまだ仕込んであるが、うかつにはもう使えねえ・・・今以上に攻撃が激化することも考えて体力は残しておかねえと・・・)
息つく暇も無く襲い来る罠や機械兵。目の前を壁のように立ちはだかるが、透過して通り抜ける。目の前から消えた黒狼を探して振り返る機械兵の視界いっぱいにゴキブリが飛来した。
「クソ真面目に戦えば即お陀仏だ。動きは邪魔出来なくても、視界を覆えば少しはましだろう」
『ふざけんじゃないわよ!私たちへの嫌がらせかしら!?』
『ああ!ゴキブリが!たくさん!』
視界を覗いていた『二つの道』へのダメージも大きいみたいで黒狼の溜飲は少し下がった。
そんな気の弛みからか今までのような重火器やレーザーとは別なものが発射されたことを気づくのに一瞬遅れてしまった。