『第四界』攻略を終えて
「『十三使徒』・・・絶大な力を有する半自律型特殊兵装・・・。こんなものを隠し持っていたなんて酷いじゃないですか」
『一点紅』は二大団長へと苦言を呈する。しかし二人はどこ吹く風といった感じでまともに取り合わない。
「ふん。『第一界』攻略後の事後処理はこちらが全てやっていたのだ。文句を言われるのは心外だな」
「そうじゃとも。それにアレはどうせ強者たち(プレイヤー)には使えんからな。儂たちが有効活用しても別に構わんじゃろう」
二人の物言いに思うところはあるものの、今まで好き勝手やっていたプレイヤー側からどの面下げて文句が言えるのかと思いとどまり、言葉を飲み下し、代わりに深い溜息を吐いた。
二人はそんな『一点紅』を見て少し申し訳なさそうにしている。
「すまないな。『一点紅』殿に八つ当たりをしてしまって。他の奴らとは顔すら合わせたくないのでな。文句も称賛も君に言うしか無いからな」
「良くも悪くも緩衝材の役割をしてもらっていて、儂らは『一点紅』殿には感謝しておるんじゃよ。それはわかってもらいたいじゃがの」
まだまだ攻略は終わっていない。攻略を進めてからは不気味なほどに沈黙を保っている世界もあれば、中でいざこざが起こっている世界もある。依然として滅亡からは逃れられていないのが現状だ。
「『第四界』までの攻略完了。これであとは八つ。三分の一を取り戻したのを喜ぶべきか、ますます攻略難度が激化することが予想されることを嘆くべきか・・・。何よりもまず、先のアナウンスについてですかね」
『一点紅』は攻略の方へ思考を変える。勢いを落としたくないこちら側としてはすぐにでも次の攻略に励みたいものだ。しかし、今回の攻略完了アナウンスは気になることを言っていた。
「イベント・・・ロクでもないことが起こるだろうな・・・それに、敵の首魁のような存在も出てきたという・・・」
カイゼル騎士団長は椅子に深く座りながら腕を組み憮然とした態度で唸る。先の攻略で騎士たちが成果を上げたことは喜んだが、新たに報告された敵の存在や何が起こるかわかっていないイベントに悩まされていた。
「『第四界』の担当をしておった『救世主』という存在も出鱈目じみたものだったはずじゃ。『火球』を超巨大化させ、大量に展開・・・。儂にも出来んわい」
この世界では冷遇されている魔術でトップにまで駆け上がり、魔術の腕ではだれにも負けないという誇りがあった。それを粉々に砕かれたような面持ちで項垂れるアダム魔術師団長。
「そして、そんな規格外な存在を瞬時に処理した鬼の面と、頭を割られて半身を無くしても気にも留めていなかった包帯道化・・・。気分の上がる報告では無いですね・・・。しかし、わかったこともいくつかありますよ」
『一点紅』は外の世界を滅ぼした存在である『敵』は自分たちと次元の違う強さを持っている、それこそ神のようなものだと思っていた。
「奴らが頻繁に『ゲーム』やら『お遊び』という言葉を使っているからもしやと思っていましたが、腹立たしいことに、奴らは遊び感覚でこの世界を滅ぼそうとしているのでしょう」
「・・・どういうことだ?」
カイゼル団長は訝しむ。
「その気になれば、ここを滅ぼすことなんて容易なことなのでしょう。しかし、奴らは過度な介入はしないと言っていた。そして、そのルールを破った『救世主』を粛清した」
『一点紅』は一つ息を挟んで話を続ける。
「奴らがやっているのは大規模な『侵略育成ゲーム』です。それぞれが介入した世界が如何に混沌や破壊を生み、基底世界に座する『大いなる意志』を排せるかというゲーム。奴らはあくまで傍観者なんです。ここの世界で生き始めた私たち(元プレイヤー)とは違って」
ダン!とカイゼル団長は会議机に拳を振り下ろした。机には罅が入り、拳からは血が流れている。怒りの闘気が立ち上っている。同じようにアダム団長も魔力が渦を巻いて高まっており、会議室全体が悲鳴を上げているようだ。
「・・・喜ぶべきことかはわかりませんが、元凶たる存在が出しゃばってくる可能性は低いということが伺えます。・・・イベントという不穏な言葉を残していますが」
『一点紅』は二人の怒りが渦巻く会議室の中で冷や汗を浮かべながら自身の考えを述べ切った。一抹の不安を覚えながら。
(ゲーム・・・。もし、このゲームが終わったら・・・?私たちの勝利で終わった後、ゲームに敗北した奴らは・・・お遊びを止めた奴らは・・・)
特大級の不安は声に出さずに、一刻も早く忘れてしまおうと頭の隅に追いやった。