【短編】クラスメイトに嘘告白で「ざまあ」を仕掛けられ渋々告白現場に行った結果
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8月5日 週間1位になりました。ありがとうございます!
■俺は罠にかけられるらしい
放課後の中庭。俺は知っていた。ここに来ても誰も俺に告白になど来ないことを。それでも、更なるトラブルを避けるためには、ここに来てバカにされる必要があった。
あとは、クラスメイト達が茂みなどから飛び出てきて俺をバカにするだけ。予定時間までもう少し。俺は間が持たないと思っていた。
灰色の厚い雲を見上げたら自然とため息も出た。
この時はまだその後に、あんなことが起こるとは、予想もしなかった。
***
「姪浜って暗くね?」「喋ってんの見たことない」「オタクそう」などなどクラスでは話が出ていた。そういう陰口は、SNSなんかの俺の見えないところでやってくれ。
俺、姪浜友和は、とにかくトラブルが嫌いだった。だから、クラスメイトとの交流も極力避けていた。そもそも交流が無ければトラブルもないのだから。
中学、高校とこの調子で特に大きなトラブルもなかったので、これが正しいと思ってしまった。周囲にあまり興味を持っていなかったからか、少々なことでは驚かなかった。
例えば、小学生の時に保健の先生と体育の先生が結婚すると聞いても「そうなのか」と思っただけだったし、中学生の時 うちの両親が実は再婚同士だったと聞いたときも「そんなこともあるのか。今は仲が良いから別にいいか」とあまり気にならなかった。高校生になって、同じ高校に妹が入学してくると聞いても「そうなんだ」としか思わなかった。
その流れで来てしまったので、高校2年になった今でもボッチを決め込んでいて、周囲に対する興味がなくなってきていた。
そして、それは知らず知らずのうちに自分に対する興味もなくしていたらしい。髪はボサボサがデフォルトだったし、メガネも似合うかどうかよりも価格で選んだダサメガネだったし、制服のシャツはボタンが1個ズレている事すらあった。
自分のことを周囲はそれほど気にかけてなどいないだろうと思い、それも特に気にしていなかった。
もしかしたら、それが少し行き過ぎていたのかもしれない。いつのまにか、クラスメイトの気を引いてしまったのか、気に障ったのか、気付いたときにはある計画が進行していた。
***
ある日、クラスのグループチャットが盛り上がっていた。
「姪浜友和に嘘告白を仕掛けて『ざまあ』しよう!」というどっきり企画が提案されたのだ。まったく、酷いことを考え付く。悪口は俺の知らないSNSで……と思ったことがあったけれど、俺が入っているグループチャットで俺の存在を忘れてそんな悪だくみをしたら全部筒抜けだ。
俺がグループ内にいることも忘れてしまっているって、どれだけ存在感がないのか……そのせいで計画の詳細まで俺に伝わっていた。
朝のうちに偽のラブレターで呼びだし、1日ソワソワしている俺を眺めてみんなでニマニマするらしい。そして、放課後に学校の中庭に呼び出すが、当然誰も来ない。
告白主が現れるその代わりにクラスの全員が物陰から一斉に飛び出し、「誰も来ないよ!どっきり大成功ーーー!」と言ってバカにするという内容だった。
とてもくだらない、小学生みたいだ。それでも、プリミティブないたずらなだけに実際にやられたら精神的にクるものがある。
問題は、この計画を罠に嵌められる俺自身が既に知っていることだ。どんなテンションでことに臨んだらいいのかが分からない。
第一、朝からソワソワする芝居をする自信がない。そのラブレターとやらの字を見て誰が書いたか冷静に分析とかしてしまいそうだ。
そして、放課後の中庭に行くときは、少しウキウキしながら行くべきだろうか。それこそスキップ位した方が良いだろうか。そんな下手な芝居ができるとは到底思えない。
そんな茶目っ気があったら、とっくにクラスメイトとは そこそこいい関係を築いているはずだ。それができないということは、それなりの理由があるということなのだ。
そして、クラスメイト達が一斉に顔を出して「どっきり大成功ーーー!」と言った時には、俺は驚いた顔がいいのだろうか、それとも悔しそうな顔の方がいいのだろうか。こちらも、そんな芝居ができるだろうか。
「驚いたなー(棒読み)」とか言ってしまいそうだ。
いずれにしても、面倒なことになった。作戦実行日まで気が重くなるのだった。
■作戦会議
自宅のリビングでソファに寝転がってテレビを見ていた。昨今のテレビは面白い番組がないと言われているけれど、今日の俺はそれに関係なくテレビがつまらなかった。
つまらないというより、内容が全く頭に入ってこない。
ぼんやりしながら無意識にため息をついていた。
「お兄ちゃん、どうしたの? ため息なんてついて……こっちが気が滅入るんだけど」
「あ、ごめん」
話しかけてきたのは、妹の千尋。ショートカットで活発なヤツでクラスでは男女関係なく人気らしい。
こいつは同じ高校の1年で歳も近いので、割と兄弟仲は良かった。
今は風呂上がりらしく、Tシャツとショートパンツでリビングに現れた。妹とはいえ目のやり場に困るやつだ。まあ、兄妹とはこんなもの。むこうが気にしていないのならば、俺も気にしないのが礼儀と言うものだろうか。
俺はいかんともしがたい状況を妹様に愚痴ることにした。
「ちょっと見てくれよ、これ」
「んーーーー? これって……ひどっ!これかなり悪質じゃない!?」
「やっぱりそう思うか」
「でも、このグループチャット見れるってとこは冗談?」
「いや、俺がこのグルチャ見れることはみんな気づいてないらしい」
「お兄ちゃん、どれだけ存在感ないのよ!?」
「俺は近々放課後に呼びだされるんだけど、その時、どんな顔をして行ったらいいのか……」
「ええ!? わざと引っかかるの⁉ なんで!? バカなの!?」
「こういうのは早い段階で引っかかっておかないと、強度試験みたいなもんで、段々高度で酷い罠にステップアップしていくもんなんだって」
「むー、本当のお兄ちゃんのことを知らないくせに好き勝手言って、なんか気に入らない!」
千尋は俺の代わりに怒ってくれているけど、俺は陰キャボッチなのだからしょうがない。
「お兄ちゃんは、もうちょっと自分と周囲に興味を持った方がいいよ!」
「そうだなぁ」
「うーん、このグルチャよーく見たら男子も女子も酷いなぁ」
「そう?」
「女子なんか、『それはやりすぎじゃない?』ってお兄ちゃんを憐れんでる子もいるくらいだよ」
「いい子もいるもんだな」
「この計画に乗っかってる時点でいい子でもなんでもないよ!」
「男子とかノリノリでお兄ちゃんを騙す気だよ! 酷い!」
「俺なんかしたかなぁ……」
「なんでクラスの中のお兄ちゃんの評価ってこんなに低いの⁉」
いかんいかん、怒りの矛先は俺の方に向かってきた。
「私のお兄ちゃんをここまでコケにしてくれるとか、私への挑戦と受け取った!」
「受け取るなよ」
「よーし、私にいい考えがある! ちょっといい?」
「いい考えも何も、こんなの不可避だろ。いいよ、俺はどんな顔していくか考えとくから」
「いいから、いいから。まずね……」
この日、千尋に「作戦」について教えてもらった。
正直、千尋の考えた作戦は、俺には全く意味が分からなかったけど、せっかく考えてくれたんだ。何か意味があるのだろうと そのまま従うことにするのだった。
■ざまあ当日
この日、いつもの様に登校すると靴箱に封筒が入っていた。アニメやマンガと違って、扉付きの靴箱じゃないので、左右の上靴に挟まれるようにして封筒は立てられて置かれていた。
「これが現実の靴箱ラブレターか」とちょっとどうでもいい感動をしつつ、その中身は空虚な物であることを思いだし、心の中でため息をついた。
この場面も誰かが見ているかもしれない。
それどころか、スマホで隠し撮りしているかもしれない。デジタルガジェットの進化は余計な心配を生んでいた。この計画に俺が気づいていることを悟られてしまったらいけないのだ。
キョロキョロしながらラブレターをそっとカバンに仕舞い、ローファーと上靴を履き替え教室に向かった。
*
教室では、クラスメイトの方が浮足立っていた。なんだかソワソワしているというか、時々チラチラとこちらを見てくるヤツもいる。普通に考えてダメだろこれ。
俺はいたたまれなくなって自分の机で大人しく座っていることにした。
ただ、目は死んだ魚の様な目だっただろうし、机に両肘を突き、組んだ指はあご乗せであるかのように あごを乗せ、何も書かれていない暗い緑色の黒板を眺めていた。
そう言えば、このラブレターの中身を見ないことには、時間と場所を俺が知っているのはおかしい。本当は、既にグループチャットで文面まで知っているのだけど。
休み時間に徐に封筒を取り出し、可愛いシールの封印を破り口を開け、中からピンク色の便せんを取り出し開いた。ご丁寧にラベンダーの香りがした。妙に凝っている。もしこれが本物のラブレターだったら俺は空中を歩くくらいには浮足立っていたかもしれない。
俺を騙すならせめて俺がいないグループチャットで打ち合わせをしてほしかった。
『放課後17時に中庭に来てください。伝えたいことがあります』
グループチャットで見た文面がそのままそこに書かれていた。字は誰か女子が協力したのか、女の子の字だった。丁寧で綺麗な字。こんなところに才能を発揮するのではなく、習字か硬筆で何かいい言葉を書いて人を感動させてほしかった。
昨日、グルチャを見ていた限りでは男子はノリノリで、一部の女子が止めにかかるような場面もあったけど、こうして女子が書いた字と思われるラブレターがここにある以上、俺に味方はいないのだと理解した。
こうなってしまったらしょうがないので、放課後に中庭に行くしかない。どんな顔をしていくか、スキップはするのか、まだ決め切れていなかった。
それでも告白などされることもない中庭に行って、クラスメイト全員にバカにされるという苦行を受けに行くしかない。
朝から放課後までこの日はずっと気が重かった。
■ざまあ当日の放課後
ついにこの時が来てしまった。今日は、クラスメイト達が俺に仕掛けた「ざまあ」が発動する日だ。
俺は、偽のラブレターの指示に従って放課後の中庭に向かった。幸い指定の17時までには少し時間があったので余裕をもっていくことができた。
いざ、中庭に行ってみると、クラスメイト達が人払いをしたのか放課後だというのに誰もいない。
一口に「中庭」と言っても校舎と校舎に挟まれた場所は全部中庭だ。意外と広い。
中庭には植栽がされていて、その後ろにはクラスメイト達が隠れているのだろう。それだけでは全員が隠れるスペースがないから、建物の陰などにいるのかもしれない。
様式美として、俺はあまり植栽に近づかない方が良いだろうし、死角になりやすい柱の陰などに行かない方が良いだろう。
そう考えると、割と広い中庭の中央にぽつんと立って17時を待つ必要があった。
俺は何をしているのだろうと空を見上げると、灰色の厚い雲が本来高い空を遮り空からも自由を遮られているようでため息が出た。
*
約束の17時になっても誰も現れない。まあ、当然だ。そろそろクラスメイト達が飛び出してくる頃だと思い、更に気が重くなりため息が出た。
物陰でゴソゴソ聞こえ始めたので、そろそろだと覚悟を決めた。むこうはむこうで出るタイミングを見計らっているのだろう。
クラスメイトの姿が植栽の後ろから一瞬見えたかと思った次の瞬間、遠くから一人の女生徒が駆け寄ってくるのが見えた。
「姪浜せんぱーい! お待たせしてすいませーん!」
誰だ!? 混乱する俺。
駆け寄ってくる女生徒は確かにうちの高校の制服を着ているし、黒髪ロングの清楚系。近づくにつれ分かったけれど、めちゃくちゃ可愛い!
俺はこんな子を知らない。
「お待たせしました! すいません、準備に時間がかかって」
上目づかいで、少し はにかみながらそういう彼女は間違いなく美少女だった。
出るタイミングを失ったのか、クラスメイト達は誰も出てこない。一瞬見えたと思った人影も今は全く見えない。
「ずっと好きだったんです!付き合ってください!」
「は、はい……俺でよければ……」
色々ツッコミどころはあるはずなのだが、美少女に可愛く告白されてしまい、反射的にOKしてしまう俺。
「じゃあ、一緒に帰ろっか♪」
「え、あ、はい……」
勢いに押されて見知らぬ美少女と一緒に帰ることになった俺。
*
物陰の後ろでは、ザワザワしていた。いつもボサボサがデフォルトだった姪浜の髪型はきれいにセットされていた。
そして、いつもかけられているダサいメガネは、コンタクトに変えられていた。
「あれ誰!? もしかして、姪浜くん!?」
「一目ぼれしたんだけど!」
物陰に隠れていた女子たちは、興奮が収まらない様子。
「誰だ! あの可愛い子を準備したヤツは!?」
「『先輩』って言ってたし1年か⁉ あんな可愛い子うちの学校にいたか⁉」
男子は男子で興奮が収まらない様子。
その日のグループチャットは大荒れに荒れていた。
「姪浜くん隠れイケメン!?」「超タイプだったんだけど!」と女子を中心に評価が真逆になっていた。
そう言えば、姪浜友和は成績も悪い方じゃない。運動もそこそこの成績。そこにイケメンとなれば優良物件だったのだ。
取られてしまうと欲しくなるのは人の性、クラスの女子たちは翌日から姪浜友和に色々とアピールしたり、アタックしたりし始めるのだが、既に彼女たちは眼中になかった。
男子たちは男子たちで、あの謎の美少女を探し回るのだが、見つからなかった。変にまじめなやつなど1年の教室を一つ一つ見て回ったヤツもいたほどだったが、あの謎の美少女は見つからなかった。
告白の日、何が起きたのか、その「答え合わせ」は、その日の夜の姪浜友和の家で行われていた。
■後日談というか答え合わせ
俺に「ざまあ」が行われた日、俺は知らない黒髪ロングの美少女と腕を組んで下校した。
途中、「あのぉ……」とか話しかけてみたけれど、「しーっ、まだ誰か付いてきているかもしれないから」とたしなめられてしまった。
彼女の声はすごく甘い声。アニメとかみたいに少し高いトーンでよく通る声。
なぜか、嬉しそうに俺と腕を組んでいる。俺にとっては、まるっきり見覚えがない子。
あれよあれよという間に俺の家まで着いてしまった。彼女は何の迷いもなく、俺の家まで付いてきた。途中、一度も「どっち?」とか聞くこともなかった。まるで最初から俺の家までの道を知っていたかの様だった。
そして、いよいよ信じられなかったのは、彼女はポケットから鍵を取り出すと俺の家の玄関の鍵を開け家に入ってしまったことだ。
玄関に入ると、彼女は「よーし、もうOK」と言って、自分の髪の毛を引っ張った。次の瞬間、きれいな黒髪ロングは外され、それがウィックであることに気がついた。
ウィッグが外されたそこには、髪の毛を整える千尋の姿があった。
「はぁーーー!? 千尋ーーー!?」
「お兄ちゃん、髪型変えただけで妹が分からないとか普段、人の顔見なさすぎでしょ!」
そう言われれば言い訳できなかった。
言われてみれば、声はちょっとだけ声色を変えた千尋そのもの。
俺はあの日千尋から授かった「作戦」について思い出していた。
千尋は、「『ざまあ』の日は中庭に行く前に私のクラスに来て」とだけ言った。
訳も分からず、中庭に行く前に千尋のクラスに行ったら、俺は髪の毛をセットされ、メガネを取り上げられた。
そして、最近使っていなかった使い捨てコンタクトを渡された。目が重たい感じになるので半分くらい使ったところで使うのをやめてしまったヤツの残りだ。
「じゃあ、中庭に行っていいよ」
コンタクトを入れると、そう言われて、訳も分からず中庭に行った。
「まさか、千尋があんな可愛く化けるとか想像もしなかった。クラスのやつらに馬鹿にされなくて助かったよ、ありがとう」
「お兄ちゃんはもっと自分に自信を持って。周囲の人のことも見たら、絶対いい線行くのに!」
「そうかなぁ……」
少しだけ残念なことがあった。
「それにしても、見知らぬ可愛い子に告白されるとか、彼女ができたと思ったのにまさか妹だったとは……」
「妹じゃダメ?」
「ダメってことはないけど、妹とは付き合えないもんなぁ」
「じゃあ、高校の間だけデートの時は、またウィッグ付けようか?」
「その後は?」
「高校卒業したら そのままでいいんじゃない? 私たち兄妹と言っても血はつながってないし、結婚だってできるんだから」
「は!? そうなの!?」
「あれ? お兄ちゃん知らなかったの? どれだけ周囲のことに興味ないの⁉」
俺と千尋に血のつながりがないことを初めて知った。どうやら俺は本当に周囲のことに興味がなかったらしい。自分の事も、周囲のことももう少し積極的に興味を持つようにしようと思った。
まずは、妹の千尋のことから。
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こちらは長編ですが、1話1000文字くらいなので サクッと読めます。
カクヨム様にて160万PV超えです。
ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ
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