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ギアーズ・オブ・キャピタリズム(6)

「――ここで狩人(ハンター)増員か。連中も諦めの悪いこった」


 いっそう激しく鉛弾が飛び交う中、俺は吐き捨てた。

 労働者の消えた工場は硝煙と血の匂いで満たされていた。クイントピアの魔導車生産を支える工作機械の数々も、今は銃弾を防ぐ障害物でしかない。


 工場内にいるウォードッグは20人かそこら。連中の総数は50くらいだから、道中に襲ってきた連中を再編成して連れてきたのだろう。


(この数が相手じゃ、ここは広すぎる。正面からやりあったら詰将棋だ)


 奴らを銃頼りのにわか魔法使いと侮って、集団戦法で蜂の巣にされた奴は数多い。そのうえ乱入したウルフコマンダーがパノプティコンを釘付けにしている。逃げながら狭い通路に誘い込み、追手の数を減らすしかない。


「廊下まで突破します。突っ込んで荒らしてください」

「待ってましたぁ! あははははははははッ!」


 フラッフィーベアが集中砲火の中を突き進み、ウォードッグの首根っこを掴んで、そのまま玩具のように振り回して投げ飛ばした。〈風柳(フレクション)〉に無効化された銃弾がこぼれ、カラカラと敵を嘲笑う。


 俺は身を屈めてその後ろを駆けながら、近くに倒れたウォードッグの腰から赤塗りの手榴弾を奪い取り、ピンを抜いて廊下へ続くドア付近に放り投げた。


 KA-BOOOOM! ド派手な火球が弾け、高熱衝撃波がウォードッグを薙ぎ倒す。ヒュドラ・クラン名物、魔導サーモバリックが詰まった爆炎手榴弾(ブラストグレネード)の炸裂。


「パノさん、こっち! 撤退です撤退!」

「解ってる!」


 BLAMBLAMBLAMBLAM! 俺は振り向き、『黒い拳銃(ブラックピストル)』を天井に向けて立て続けに撃った。


 銃弾がパノプティコンの背後を通過し、奴を追いかけるウルフコマンダーを襲う。獣人(ライカン)の傭兵隊長はヴァイヴロ・マチェットを一閃し、銃弾を容易く切り払った。


「お粗末だな、ヒュドラ・クランの死神。勇名はフカシか?」

「バックスタブだ。こんなところで油売ってていいのか、隊長さんよ? カタギもいる闘技場で迫撃砲なんぞ使いやがって、リバーウェイブがキレてたぜ」

「奴は振り切った。――敵が多いのは暗黒闘技会も同じこと。貴様らに主力を軒並み()られた今、縄張りを放り出して追ってこれるものかよ」


 ウルフコマンダーが無感情に言い捨て、アサルトライフル(カラシニコフ)を片手撃ちで連射した。俺は横っ飛びに転がりながら撃ち返し、銃弾を避けながら通路へと走る。ウォードッグたちが一斉に動き出した。


「逃げる気か? いじましい努力だ、褒めてやる……!」


 ZZOOOM! ウルフコマンダーがマギバネ義足のブースターを噴射し、パノプティコンに距離を詰めて斬りかかった。パノプティコンは振り向き、魔力を込めた鋼鉄ステッキで斬撃を受けた。スプレーのような火花が散った。


「チビのくせにしぶとい。故郷のクズリ(ウルヴァリン)を思い出す」

「ほざけ、マギバネ野郎! クズ肉まみれのスクラップにしてやる!」


 ふたりが同時にサイドキックを繰り出した。鋼入りのブーツとマギバネ義足の靴底が激突し、強化魔法(エンハンス)同士が斥力を生んだ。ニトロ爆発めいた衝撃が建物を揺らした。


「先に行け! 自力で追いつく!」


 パノプティコンが言い捨て、両目から〈邪視(イビルアイ)〉の病んだ眼光を放った。

 喰らえば即、心停止を引き起こすスキルの視線。ウルフコマンダーは両脚のブースターを瞬間的に噴射し、予備動作もなく跳躍して躱す。


 KRAAAAAASH! その一瞬の隙に、パノプティコンは真上にサイコ・プッシュを繰り出し、屋根を破壊して建物外に逃れた。ウルフコマンダーもそれを追う。


「パノさんが敵を引き付けてくれた――今っす、廊下へ!」

「はぁーい!」


 俺は手榴弾を次々投げながら作業場を飛び出し、ドアの外れた出入り口から廊下に転がり込んだ。BRATATATATATATATA! 背後からブラストビートめいた銃弾の嵐、フラッフィーベアが身体を張って防ぐ。


「階段を上って渡り廊下へ、そこから管理棟に走ります」

「もっとたくさん敵がいるんじゃないのー?」

「暗黒シンジケートはギャングとしちゃさほど武闘派じゃありません。腕の立つ傭兵もこないだ南区でぶっ殺したばっかです。巻き込みまくって乱戦にした方がいい」


 廊下の幅はせいぜい人2、3人分。背後でウォードッグが散開する足音。俺は『ヒュドラの牙』を構えて先陣を切り、強化魔法(エンハンス)を発動して曲がり角へ走る。


「角の向こう、待ち伏せあるかもよ」

「知ってます。できるだけ殺さないようにしましょう」

「えー!? どしたの急に」

「戦術っすよ。死人は放っとけても、怪我人はそうもいかねぇでしょ」


 BLAMNBLAMNBLAMN! 角から銃口を出し、決め撃ちの散弾3連射。

 同時に一瞬だけ顔を出して確認。案の定、角の向こうで待ち伏せていたウォードッグが3人、姿勢を低くして散弾を避けていた。


 間髪入れず飛び出し、走る。一番近いひとりが苦し紛れに銃剣を突き出す。

 俺は『ヒュドラの牙』の銃口を振り、スパイク付きのストライクハイダーで銃剣を捌いて、敵の鳩尾を突いた。BLAMN! そのまま散弾を撃ち込む。


「GRRRR!」


 フラッフィーベアが吼え、手裏剣を投げる。引き延ばされた主観時間の中、黒鉄の星がゆっくり回転しながら顔の横を飛んだ。


 身を翻して強化魔法(エンハンス)。腰の拳銃を抜いてクアドラプル・タップ。BLLLLAMMMM! 9ミリ弾の槍衾がふたり目の両手足を貫く。同時に手裏剣が最後のひとりに着弾し、腹をえぐってうつ伏せに倒した。全滅だ。


「お見事!」

「あざーっす」


 俺たちはうめくウォードッグたちを放置して進んだ。階段を上がり、渡り廊下へ。


「ちょっと待ってー、置き土産してくから」


 フラッフィーベアが踊り場から後ろを振り返り、両手をかざして土魔法(アースマジック)の黒鉄を生み出す。

 また手裏剣かと思ったが、違った。鉄棘を四方に生やした設置武器マキビシだ。フラッフィーベアはそれを一瞬で何十個も作り、階段の下にバラ撒いた。


 BLAMBLAM! 意図を察した俺は天井に銃を向け、魔法照明を撃った。

 照明が消え、階段周りを緞帳めいた暗闇が覆い、床中に撒かれたマキビシを隠す。俺とフラッフィーベアは無言で手を打ち合わせ、ドアを開けて、渡り廊下に出た。


 空中を貫く渡り廊下の長さはおよそ30メートル。後付けで設置された鉄骨とセメントの回廊。先回りが追い付いていないのか、敵の姿はない。


「GROWL!?」


 背後からウォードッグの悲鳴。マキビシを踏んだか。あまり猶予はない。

 屋根の上からジェット音、そして立て続けに響く魔導車事故めいた激突音と振動。手練れの魔法使い同士の戦いを背後に、俺とフラッフィーベアは駆け出した。

読んでくれてありがとうございます。

今日は以上です。この更新は日に一度行います。

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