92 ヘボ聖女(挿絵あり)
「モナのレアアイテムがドロップする能力がいるって言ってんの!じいさんのボケた頭には理解できないかもしれないけどさぁ」
ルナさん。シンセイはボケてませんよ。
って言うか、ルナ口悪る!いや、人の事はいけないけど、私は初対面の人には猫30匹ぐらい背負って話すけど?社会に出ると1匹2匹逃げても賄える量は背負うってことが大事だと思うけど?
まぁ、一度だけ大脱走したこともあったよ。
失敗なんて、してなんぼのものだ。次、失敗しなければいい。職場の先輩が言っていた『失敗しても命まで取られないから』と。取られないけどすごくヘコんだよ!
まぁ、それも遠い記憶の海の底だ。
「フォッフォッフォッフォ」
奇っ怪なシンセイの笑い声が耳に響いてきた。何か嫌な予感がする。
「小童にここまで無下にされるのは初めてのことであるな」
お、怒っていらっしゃいます?空気がピリピリしている気がする。
「小童ども外に出ろ!!」
空気が揺れる程の威圧的な声が、この一帯を満たした。その声にソフィーは更に私にしがみつき、私はジュウロウザにしがみつく。
シンセイ!ここは野戦場じゃないよ!
「シンセイ。モナ殿とソフィー殿が怖がっている。殺気を抑えてくれ」
「おお、これは失礼いたした」
シンセイの苦笑いの横顔が見えた。思わず、と言ったところだったのだろう。
「モナ!そこにいるじゃない!出てきなさいよ!」
いや、いきなり攻撃してくる人たちのところに誰が素直に出ていくか!
「じゃ、いいわよ。勝手に喋るから『カスヒロイン!あんた転生者でしょ!海の雫だって?あんなものちまちま集めてられないわよ!ばかじゃない?』
日本語だ。やはり、ルナは転生者だった。ルナの言葉にジュウロウザがビクリと反応し、私の顔を伺い見る。
『ヘボ聖女。その言葉そっくりそのまま返すけど、カスステータスをわかっていながらロズワードに連れていくっていう、その根性。それにロズワードにレベル35のリアンを引き連れて行こうだなって、ばかじゃない?死にたいの?』
『レベル35!』「リアン、あんたレベルはいくつなの?」
え?今更確認すること?ルナに問い詰められているであろうリアンからは戸惑いの声が聞こえていた。
「え?35だけど?」
「ちっ!」
そこ舌打ちするところ?そういうのって、きちんと確認をしておかない?
『モナ!あんただってわかっているでしょ!ロズワードを攻略すると飛躍的に行動範囲がアップするって!そこのボケジジィがいればリアンのレベルが低くくても大丈夫でしょ!』
わかっている。古代の装置を起動すれば、行動範囲は大陸中に広げることができる。それも空中都市ネルファーキルにも行くことができる。
それは古代の都市を繋ぐ転移装置。しかし、転移装置に乗ることができるは5名まで、だから、勇者の仲間は4名までと設定されていた。
『何を急いでいるのか知らないけど、レベルも低く、物が揃っていないのに、ロズワードに行っても死ぬだけ』
私はそんなことで死ぬのは嫌だ。できれば、大往生でぽっくり逝きたい。
「ルルドにお父さんとお母さんが調査にいったまま帰ってこないの!イルマレーラ国の国境は封鎖されていけないの!だけどロズワードからは行けるでしょ!」
その言葉に私は目を見開く。本当なら父さんと母さんが受けていた依頼だ。そこで泣き声で叫んでいる少女は私だったかもしれない。
私は目をつむり考える。考えてもみるが、レベルが低すぎて話にならない。そのあとのルルドもそのレベルじゃ死ぬだけだ。
ロズワードはここから南の国を二つ越えた先にある大森林の中にある遺跡ダンジョン。私が行くだけでも一ヶ月はかかるだろう。
一ヶ月か。
「そうね。一ヶ月でエトマのダンジョンを攻略してレベルを45までにあげたら、手伝ってあげる」
「モナ殿!」
ジュウロウザが私の言葉を止めようとするが、私は首を横に振る。
「一ヶ月!一ヶ月なんてかけていられないわよ!」
「言っておくけど、これが一番早いから、私がロズワード行くのにそれほどの時間が必要なの。貴女もわかっているでしょ?レアアイテム要員でしかないカスステータスだって」
「ちっ!わかったわよ『カスヒロイン』!集合場所はわかっているでしょうね!」
「サイザールの【グロージャン】」
「ならいいわ」
そう言って、ルナはリアンを促して、倒れている人たちを叩き起こして、去っていった。
はぁ。体力全快だったはずなのに、すごく疲れた。
「モナ殿、あのような事を言ってよかったのか?」
ジュウロウザが心配そうに声をかけてきた。いいも悪いも私の一言で本来あった事柄が変わってしまったのかもしれないと思うと、申し訳ないという気持ちが勝ってしまったのだ。
「いいのです。ルルドに行くはずだったのは母さんと父さんだったのですから、私が行くことを止めたことで、彼女の両親に白羽の矢が立ったのでしょう」
「お父さんとお母さんが?」
あ、ここにはソフィーがいるのだった。
「でも、それはおねぇちゃんが悪いわけじゃないよね。お父さんとお母さんが仕事をやめたように、あの人のお父さんとお母さんも仕事をしないって言うこともできたよね」
「ソフィー殿の言う通りだ。モナ殿が責任を追うことはないと思う」
二人の言い分も最もだ。しかし、私は苦笑いを浮かべてしまった。多分、恐らく、いや、かなり勇者のフラグを回収してしまったような気がする。
火の神殿に行けないのはかなりの痛手になることだろう。