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90 不味過ぎる

 リアンは不満気に背を向けて行った。ドジっ子聖女のところに戻って行ったのだろう。

 私はジュウロウザに促され、部屋に戻された。疲れた。この数日連続でリアンの相手をしたから凄く疲れた。本当に体力の消耗が激しい。

 HPが倍の60になったにも関わらず、現在HP15って、どれだけ消耗してしまったのか。以前ならぽっくり逝っている消耗の激しさだ。


 はい。ただいまベッドの上でうつ伏せに倒れ込んでいます。


 あー!イライラする!!ルナルナルナってどれだけ好きなんじゃー!その口で私を好きだと言うなー!

 私がカスステータスじゃなければ、胸ぐら掴んで、睨みつけて『あ゛ぁん?!何言うてとるんや?!ボケが!』(エセ関西風)と言って頭突きしていたわ!


 はぁはぁはぁ、枕をバシバシ叩いていたら、HPが一桁に····落ち着かないとそろそろ本気で死にそうだ。


「姫、あの者を始末して参ろうぞ」


 疑問形ですらなく断定!起き上がる気力もなく顔を横に向けると武器を携えたシンセイが!

 長さのある戟を家の中で振り回さないでとお願いしたら、ご老人の歩行を助ける杖を常に持ち歩くようになった。しかし、それはダンジョンの30階層のオーガを一撃で倒していた杖じゃないか!杖だけど立派な武器だ。


「まいら···なくて··いいです···」


 リアンは魔王を討伐してもらわないといけないし。始末は駄目だ。


「では、抹殺して来ようぞ」


 内容的には何も変わってない!


「いかな····くて·いい···です」


 はぁ、あの納得のしてない感じはまた来ることになるだろうなぁ。

 しかし、疲れた。このまま寝てしまおうか。今日は朝の内に野菜の収穫をしたかったのになぁ。


「モナ殿、起き上がれるか?」


 ジュウロウザの声が聞こえ、閉じようとしていた目を開けると、心配そうな顔をしたソフィーの姿が見えた。

 まぁ、あれだけ大声を出せば、ばぁちゃんとソフィーがいる作業場にも声が聞こえたのだろう。

 起き上がれるかと問われたが、私はこのまま寝たい。何も反応せずに目をつぶろうとしたらソフィーの声が聞こえた。


「おねぇちゃん。お薬を飲んでから眠って、ルードにお願いしてお父さん達を呼んで来てもらっているから」


 ああ、今日は水車の組み立てをすると言っていたな。3日前の村長の話も水車はこれでいいかという確認をしたかったらしい。

 今回作ってもらった水車は精米器を連結した作りにしてもらったのだ。


「もうリアンにぃちゃんをおねぇちゃんに近づけないようにって、言ってもらっているからね」


 そんなことで、諦めるリアンなら私も今まで苦労はしなかったし。


「はぁ、むり····でしょ」


 とにかく眠い。今はリアンのことは考えたくない。

 人が眠りの落ちようとしているのに、体を起こされ、嗅ぎ慣れた薬草の匂いが鼻をついて、思わず目を開ける。

 ソフィーが緑色の怪しい液体を差し出していた。クソまずい体力回復薬····私はとどめを刺されるのか。

 はぁ。元気になって速攻粉薬を作っておけばよかった。飲み込む気力は残っているだろうか。いや、気力は残っていない気がする。


 しかし、ソフィーは容赦なく緑色の液体を突きつけてくる。


「おねぇちゃん飲んで」


 ふるふる震える手で緑色の液体が入った容器を受け取る。

 そして、意を決して一気に呷る。しかし、口を思わず押さえた。吐きそう。ここで、キラキラモザイクのエフェクトを出すわけにはいかない。

 気合だ。気合。うぅー。ごっくん。


 不味い。不味過ぎる。なんかいつもより不味い気がする。思わず、ふるふるしながら涙がボロボロ出てきた。このエグ味は何!


「ソフィー····これま····ず·す··ぎ」


 別の透明な液体が入ったコップが差し出されたが、怪しすぎて飲む気が起こらない。もう、今日は疲れた。口の中がしびれているみたいになっているし、散々な日だ。

 私はそのまま横に倒れる。


「おねぇちゃん!これも飲んで!」


 ソフィーが透明な液体を差し出して言っているが、これ以上薬は受け入れられない。


「む···り··ねる」


「モナ殿これは食べられるか?」


 薄目を開けると、白い果肉のブツが見える。いちご。いちごだ。

 口を開けると、瑞々しい果肉が口の中に入ってきた。咀嚼していくと甘酸っぱい果汁が出てきて、口の中のエグ味がマシになってきた気がする。


 二口目、美味しい。やっぱりこれ好きだなぁ。いちご。

 そして、そのまま意識が沈んでいった。



_______________


モナが眠った後



「おねぇちゃん。何で、これを飲んでくれなかったのかな?」


 いつもなら、薬を飲んだ後には苦味を流し込むために、必ず水を飲むはずのモナの行動にソフィーは疑問を感じた。それも、モナがラベリーが好きだとわかったので、そのラベリーを絞った果汁が入った水だったのだ。


「モナ殿は先程マズすぎと言っていたが、いつもと違う物だったのか?」


 モナの涙の跡を拭いながらジュウロウザがソフィーに聞いてきた。

 それに対し、ソフィーは心当たりがあるのか、はっした表情をして、モナが飲んだ容器の底に残っている緑の液体を舐め取る。

 その味にソフィーは顔を歪め、モナの為に用意をしていたラベリー水を一気に飲み干す。


「天水を入れ忘れた!おねぇちゃんごめんなさい!急いで作ったから····ああ、ばぁちゃんに怒られる」


 寝息が聞こえるモナに謝っても聞こえないであろうが、ソフィーはそんな姉の前でうなだれてしまった。


「『あまみず』という物を入れないと何か問題があるのか?」


 ジュウロウザの問いにソフィーはうなだれたまま答える。


「薬効には何も変わりないけど、口の中が引きつるような苦味を無くしてくれるの」


 ソフィーは寝てしまっている姉に再度謝って、落ち込みながら部屋を出ていった。このあと祖母のサリに怒られることになるのだろう。


 そんなソフィーの背中を見ながら秦清が呟く。


「あの若造の行動は色々問題があるのであろうな。一度、灸を据えるべきではなかろうか」




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