9 私の職種は村人だ
「もう一度確認するけど、この村を出ていく気はないの?」
私は再度確認する。このクラッシャーであるジュウロウザを村に置いておくのは私は反対だ。いくら収穫に人手が足りないと言っても、リアンの交代要員だ。一人ぐらい居なくても大して差はないだろう。
私の質問にジュウロウザは視線をウロウロさせていたが、ため息を吐き出し、私の目を見て言葉を口にした。
「モナ殿には迷惑を掛けることになると思うが、約束をしたとおり収穫の手伝いをさせて欲しい。なんというか。こんなに時がゆっくり流れていると感じられたのは子供のとき以来なんだ」
え?それ程クラッシャー具合いが酷いということなのか!
「そうだよね。この村にいると魔王なんていないんじゃないかって思うよ」
ルードがジュウロウザの隣で頷いている。恐らくルードは他の町や村を周っている行商人からこの村は森に囲まれているのに、魔物に襲われなくて平和そのものだということを聞いて、ジュウロウザもその事を言っていると勘違いしているのだろう。
しかし、ルード。問題は目の前の人物にあるように私は思うよ。
「ほら、モナねぇちゃん。早く出発しないと日が暮れちゃうよ」
ルードは私を採取に向かうように促すが、先程ちらりと確認した荷車の中を見てルードに待ったをかける。
「ルード。待って!鉈は大きめの物に変更して、スコップシャベルも入れておいて」
出発前に持ち物の変更を言ったにも関わらず、ルードは笑顔で『了解』と言って、用意をするために納屋の中に入っていった。
そして、私はジュウロウザに視線を向ける。
「キトウさん。ひとついいですか?はっきり言って不幸の根源と言っていいステータスは私にとって脅威なのです。“ステータスオープン”」
私はそう唱えジュウロウザに私の基本ステータスを見せる。
Lv.20
HP 30
MP 11
STR 5
VIT 3
AGI 13
DEX 9
INT 30
MND 10
LUK ∞
「これ見てもらえればわかると思いますが、Lv.20で幼児並みのステータスなのです」
ジュウロウザは私のステータスを目を丸くして見ている。普通の冒険者ならLv.20もあれば新人を卒業して一人前と扱われるようなレベルだ。しかし、新人冒険者が練習に狩る一角兎にも勝てない。
「ですから、グレイトモンキーだなんて魔物がこの村に現れるようになると私は生きていけません。まぁ、お互いの妥協点として麦の収穫が終わるまでは我慢しましょう。私のステータスは幼児並ということを忘れないでください」
そう言って私はステータスを閉じてジュウロウザに近づいて行って、腕を掴む。
もうLUKがマイナス50万に達してしまった。これ以上は何が起こるか恐ろしすぎて私がガクガクブルブルだ。
ルードが荷車を引いて北に向かって行っている。その横で私はジュウロウザの腕を掴んで歩いている。
歩いているが、村の人達の視線が痛い。リアンが居なくなった早々に男を捕まえてきたのかなんて声も聞こえてくる。
捕まえていないからね。いや、腕は掴んでいるけれど。
「ここの村は豊かだな?」
ジュウロウザからそんな言葉が聞こえてきた。
「そうかな?普通だと思うけど?」
ルードが答えている。他の村や町の現状は村から出ないと見えてこない。この村から出たことがないルードでは、この黄金の麦畑の美しさは理解できない。
村の北側に広がる麦畑。魔物に襲われた村ではこのような黄金の麦畑は見ることができないのだ。
「いや、豊かな村だ。高くそびえる壁に囲まれたところなら可能だろうがな」
「高いカベ?それって息苦しそう」
今では普通になってきている。高い壁で町を囲むことで人々を魔物の脅威から守っているのだ。
「そうかもな」
そんな事を二人が話していると北の森にたどり着いた。ここではローズ草が採取できるのだ。ローズ草はバラの香りがする草で、婦人病を治す薬に使われる薬草だ。これは町での需要が多く高く売れる薬草の一つとなる。
あと、私のラッキーで得られる物だ。先程、ルードに持ち物の変更を言ったが、それは今回必要になるだろうという直感というものが働いて、変更をしたのだ。だから、今回はとても良いものが得られそう。
森に入ってすぐのことだった。ルードが荷車を止めて叫び声を上げた。
「モナねぇちゃん!金色の木が!」
ルードが指した先には黄金に光った竹が!かぐや姫か!
「ルード!鉈と麻袋を!」
そう言って私はジュウロウザから離れて黄金に輝く竹の前に行き、周囲をぐるりと回る。
ここは竹林というわけではない。どちらかと言うと、建材に使う針葉樹が多く植えられている森だ。
「あと、スコップシャベルも」
スコップシャベルも持ってくるように言った後にルードが『ハイ』と言って鉈を渡してくれた。それを受け取る。魔物に攻撃できない私に鉈を渡すルード。
別にこれは間違いではない。なぜなら私の職種は村人だ。