85 もう、無理
リ、リアンがいるような気がする。ここに居ない筈のリアンが!!!キラキラの金髪が目の端に映っているような。きっと、き···気の所為だ。
しかし、肋骨がミシミシと悲鳴をあげていることからこれが現実だと思わされる。声を上げようにも恐怖が体を支配して口からはヒューと息が漏れるのみ。
「モナ、父さんから聞いたんだ。俺が考えなしに外の人を村に入れてしまったから、村に死の病が蔓延したって、それをモナが薬草を手に入れてくれたおかげで死人は出なかったって」
そ、そんな終わったことは良いから、力を緩めてよ!い、痛い。背中から圧迫されリアンとの間に挟まれ、ギリギリと痛い。
「シオンさんからも凄く怒られた。何を考えているんだって、その後モナが倒れたって聞いて村に戻りたかったけど、父さんが駄目だって言って戻れなかったんだ。モナ、ごめんね」
あ、謝る前に私を解放して欲しい。ごめんと言いながら力を強くしないで欲しい。
「兄ちゃん!モナねぇちゃんから手を離して!」
る、ルード!!た、助けに来てくれた!
「ルード!邪魔をするな!」
て、天の助けを邪魔だなんて!!
ミシミシと体の中を通って軋む音が聞こえてくる。モナの人生は圧死という死因で終わるのか。もう、気絶していい?もう、耐えきれない。
ふと、呼吸が楽になった。思わず大きく息を吸い込むと激痛が体をめぐり、咳き込んでしまう。咳き込んで余計に痛い。
何か声が聞こえるけど、痛みのあまり言葉が理解できない。
「ゴホッ」
何かが体内から出てきて慌てて手で押さえると、生温かいものが滴ってきた。手のひらを見ると····なんじゃこりゃー!!
赤い液体がベッタリと手のひらに付いていた。ストレスのあまり血を吐いた???
いや、右胸の以前ヒビが入った辺りが痛いから、これは完璧に折れて肋骨が肺に刺さっているのだろう。
もう、無理。
そして、私の意識は暗転した。
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さて、少しだけ時間を戻してみよう。
モナが村長に呼ばれ、秦清が村の子供たちに棒術を教えているのを、横目でその風景を見ながらモナは進んでいた。しかし、モナは気がついていなかった。正面からリアンが近づいていることに。
そのことにいち早く気がついたのが、ルードだった。ルードはモナに挨拶として手を振ったわけでなく。それ以上、よそ見をしながら進んではいけないと、止めていたのだ。
しかし、モナに気がついて貰えなかった。
ルードは慌てて近くにいた秦清にお願いをする。
「老師!兄さんをモナ姉ちゃんから引き離してもらえませんか?」
と。その言葉を聞いた秦清はモナの方に視線をむける。
「ふむ」
若い男女が抱き合っている。いや、ルードが兄と言った者がモナを抱きしめているが、モナの方はピクリとも動いていない。そのルードの兄という者を、拒否る素振りをモナが見せようものなら、秦清は直ぐにでも動いただろうが、若い者たちの邪魔をするのは、如何なものかと首を傾げたのだ。
それにルード以外の子供たちがリアンとモナを見て
「リアン兄ちゃん。ラブラブだね」
「ラブラブゥ!!」
「大好きだもんねー」
なんて口々に子どもたちが言っているのだ。これこそ老人が二人の間に入ろうというのは無粋というものだ。
こんな面倒なことは別の者に任せようと頼み事をしてきたルードに秦清は言う。
「適任を連れてこようぞ」
そう言って秦清の姿はかき消えてしまった。
しかし、その秦清の行動にルードは不満を顕にした。引き剥がすのは今すぐ出なければならないのだ。これは、リアンとモナの力の差を間近に感じていたルードだから思うことであって、他の者の目からは今現時点で危険性は何もないのだ。まさか、モナが恐怖の余り声すら出せない状態だとは気が付かない。
そして、ルードは自分の兄をモナから引き剥がす為に駆け出すのであった。もし、モナになにかあれば、ソフィーが悲しむ事になるのだから。
秦清が何処に向かって誰に面倒事を押し付けようとしたかと言えば、それは勿論、モナが通る少し前に南の方から家の方に向かっていった十郎左にである。
モナから野菜を渡され、裏の井戸で洗っていた家に入ろうとしていたテオが家の玄関前にフッと現れた秦清と鉢合わせをして『うぉ』っと声を上げた。
「将はどこにおるか?」
そう秦清に問いかけられたテオは驚きのあまり戸惑いながらも答える。
「あ、ああ。ジューローザは汚れた衣服を着替えているのでは?」
それを聞いた秦清は頷いて、真新しい家の中に入って行った。
中に入ると、ちょうど二階から十郎左が降りて来たところだった。それも真新しい着物袴姿だった。秦清の着ている深衣もそうだが、この村の女性たちが、見様見真似で作ってくれたものだ。
それは、リリーの姉であるアレーネがお礼だと言って、大量の布地をモナに差し出してきたのだ。その後ろではエクスが『僕の商品』と嘆いていたが。
それで、ここでは手に入らない和国の衣装や夏国の衣装を作ってもらったのだ。
「将、丁度よかった、隣の坊の兄というものが、戻ってきたようなのだが、姫が···」
秦清が最後まで言葉にしていないにも関わらず、十郎左の姿が目の前からかき消えた。




