8 問題はステータス
「薬草?薬草ならばぁちゃんがいっぱい持ってるよ」
ソフィーがばぁちゃんを見ながら言った。ばぁちゃんはというと黙々とスープを掬って食べている。そして、私も黙々とパンを食べている。
「いや、探しているのは希少な薬草で『雪華籐』と言う花なんだ」
「セッカトー?」
ソフィーが首を傾げながら、言葉を繰り返している。ふふっ。その姿も可愛い。
「あと、『雷鳴鈴』という植物もなんだが、聞いたことないだろうか?」
その言葉に私はビクリと肩を揺らす。
『雪華籐』の事はわかっていた。これをジュウロウザが求めていた事を
『雪華籐』は雪深い山奥の全く溶けない雪の下に咲く花だ。これは麓の村のサブイベント『村人の病を治す花を探せ』で必要なアイテムだ。このサブイベントでの注意事項は『ジュウロウザを仲間にしてはいけない』だ。
このサブイベントでジュウロウザを仲間にして雪華籐を採取した瞬間。イベントが始まり、ジュウロウザが『妹の薬に必要な薬草なんだ』と言ってドロンと消えてしまう。
え?帰り仲間が減った状態で戦って戻れと?
そんな理不尽なイベントの後はジュウロウザが仲間に出来なくなる。きっとこの大陸を去ったと認識していたのだが、『雷鳴鈴』もだって?
「モナ殿は何か知っているのか?」
隣からそんな声が降ってきた。
「···知らない」
そう、普通の村人は遠くの地にある薬草のことなんて知らない。情報社会ではないこの世界に検索すれば答えが見つかる便利な検索ツールなんて物はないのだ。
昼食を終えて私は日課の薬草採取に行く。今日は北の森に行こうと準備をして、納屋前に行く。そこには納屋前に出ている荷車に道具をいれているルードと、腕を組んである一点を凝視しているジュウロウザがいた。
一点を凝視している理由。昼食を食べ終わったぐらいに−56384まで上がったLUKが−158268になっているのを確認しているのだろう。すごく眉を顰めている。
いやー。私もその数値の下がり方は驚いたよ。
「あ!モナねぇちゃん!準備できたよ」
ルードが私に気づいて声を掛けてきた。その言葉にルードの隣にいたジュウロウザが顔を上げ、一歩踏み出そうとしてためらった。いや、横にいるルードが袖を握っていたのだ。
偉いよルード!いつも猛犬のように私に突進してくるリアンを見ていることだけはある。
まぁ、リアンの場合はそんなルードを振り切って来るので私が悲鳴をあげ、リアンとルードの母親であるトゥーリさんに怒られるのが日課となっていた。
そんな偉いルードの頭を撫でてあげる。ルードもソフィーと同じく撫でられるのが好きなようだ。この年頃の男の子なら『やめろよ』と手を振り払われそうなんだけど。
ふふふ。この二人は本当に可愛い。
「モナ殿、お願いがあるのだが」
上から躊躇った声が降ってきた。妹扱いしてこなかったということは、ルードに何か言われたのだろう。
「何か?」
「手を握ることが駄目なら、モナ殿が俺の腕を掴むというのはどうだろう」
ジュウロウザの視線が、なにもない空間と私の間で忙しなく動いている。そうだね。−247326まで下がってしまっているからね。きっと今まで気にしていなかったのに、私が指摘したことで、とても気になり始めたのだろう。
「それは可能ですけど、注意事項があります」
「なんだ?」
私は手の平を前に突き出して、指を一本ずつ折っていく。
「私が手を繋いでいるのに、いきなり走り出さない。いきなり魔物に攻撃を仕掛けない。岩があるからと言って登り出さない。川で水遊びだと言って飛び込まない。で、一番大事なのが『お宝発見』と言って私より先に物に触れない」
そう、一番大事な事なのだ。
「一番最後はよくわからないが、それ以外は普通に駄目だろ?」
普通は手を繋いでいるのに掛け声もなく、いきなり駆け出すのは駄目なことぐらいわかるはずだ。しかし、あのバカリアンは何度言っても理解しなかった。先程の注意事項の5項目はリアンが行動を起こしたことにより、私の肩の関節が外れた5回なのだ。
「それがさぁ、俺の兄ちゃんがモナねぇちゃんと手を繋いでいるのに、直ぐに走り出してモナねぇちゃんの肩の関節が外れちゃったんだよ。母さんに何度怒られたことか」
「え?手を繋いで走っただけで関節が外れるのか?」
普通はないよね。手を繋いでいる子供が駆け出したら、繋がれている方は足がもつれてコケるとかならわかるだろう。しかし、何度も言っているが私のステータスはカスでリアンは勇者のステータスなのだ。
握ったまま離さないリアン。リアンに引きずられる私。
それは肩も外れるよね。
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