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73 桜吹雪?

 雪が降る中、カポカポとベルーイが進んでいく。真っ白な世界には轍や騎獣の足跡が街道に沿って続いているぐらいで、魔物の存在など見当たらない。上空は厚い雪雲に覆われているが南の方角は雲が薄く日が差し込んでいることから、もうすぐこの雪ともお別れだ。


 雪が全ての音を飲み込んでいるので、辺りはベルーイの歩く音しか聞こえない。怖いぐらいに静かだ。


「モナ殿」


 降っている雪を眺めていると、ジュウロウザの声が降ってきた。


「なんですか?」


「先程の事だが·····」


 言いにくそうに言葉を止めてしまった。先程のこととはどのことだろうか。


「『闇待月』は何処にあるのだ?」


 ああ、その事?ん?って言うことは


「キトウさんは封じられた神の成れの果てを解き放ちたいと?」


「違う。ただ···そう、ただ興味があっただけだ」


 興味ね。あんなモノに?興味を持つ程のものじゃないのに。きっと、探すように言われた事が頭に残っているのだろう。


「次元の狭間ですよ。神が封印を解かないように隠したのですから、普通にはいけませんよ」


「そうか、行けないのか。でも、行くことはできると」


 諦めきれないのだろう。絶対に手にすることは適わぬと知りながらも、求めてしまうのだろう。

 行けないことはない。リアンと共に行動をすれば、たどり着くことになるだろうから。

 だから、ジュウロウザに私は選択肢を提示する。どうするかはジュウロウザが決めればいい。


「勇者リアンと共に行動すれば、たどり着くことはできますよ。そこには勇者にとって必要な物がありますから、必ずたどり着きます。キトウさん、どうされますか?リアンがこの大陸にいる間に共に行どu···」


 私はその続きの言葉を紡げなかった。ジュウロウザの手によって口を塞がれてしまっていた。

 人が折角たどり着ける方法を教えてあげているというのに、いったい何だ!という意味を込めて、ジュウロウザを仰ぎ見る。


「その続きは言葉にしないでくれ。ただ、知りたかっただけなんだ。モナ殿に捨てられるのは嫌なんだ」


 私はジュウロウザの腕を持って、下におろす。


「私は、キトウさんを拾っていません!それに、国に戻りたいと願うのであれば、リアンと共に行動を共にするのが一番の近道です」


 そう言うと頭を撫ぜられ、そして、ジュウロウザは少し寂しそうに笑った。


「いいんだ」


 その時、粉雪が風に煽られ、辺りに無尽蔵に舞ったその情景は、まるで桜吹雪のようだった。


 一瞬、世界が色づいた。真っ白な世界から淡い桜の色に。過去の記憶の情景と今が重なった。


 ドクンっと胸が波を打つ。

 桜が舞い散る中、私とジュウロウザは存在している。

 まばたきをすると真っ白な世界に戻っていた。今のはいったい何?


 ドキドキする心臓がうるさい。

 これはきっと私の過去への妄執が生んだ目の錯覚だ。私は息を大きく吐き出し、うるさい心臓を落ち着かせたのだった。




 そして、翌日の昼過ぎにはダンジョンの街エトマにたどり着いた。

 服装も雪山装備から、ただの村娘の服装に戻っている。ジュウロウザも見慣れた着物袴姿に戻っていた。


 今日は朝からシトシトと雨が降っている。外套に雨が当たり流れ落ちていくが、こころなしか肌寒い。

 普段は活気のある街だけど、雨が降っているので外を歩く人はまばらだ。

 なぜ、私はこのエトマが気になったのだろう。

 ベルーイが泊まれる宿を門番に聞いたので、今はそこに向かっている途中だ。


 ダンジョンの街だけど、私がダンジョンに潜れるはずもない。そもそも、ここのダンジョンは中級のダンジョンで100階層もある中々攻略しごたえのあるダンジョンだ。私なんて1階層で、プチッとやられてしまうだろう。


『うぉぉぉぉ!』


 いきなり、人の叫び声が耳を圧迫した。大音量の雄叫びだ。


「いやね。また、あのボケ爺さんが叫びだしたわ」


 野菜を売っている店の人の声が聞こえてきた。店の女性の言い方だと、毎日叫び声が響いているかのようだ。


「本当にいつまでこの街にいるつもりかしら?」


 そこで野菜を買っている客の女性も嫌そうに話している。

 ボケ爺さん?


『陛下!蛮族が攻めて来ますぞ!』


 何処から叫んでいるかはわからないが、この辺り一帯に響いているようだ。陛下って何処の陛下だ。こんな所に王なんていやしない。


『吾が(げき)を持て!』


 あ!思い出した!

 私はジュウロウザを掴んでいた手を離し、声がする方に向かっていく。

 行く先とは別の方向から聞こえてくる。道の先にある開けた広場のような場所に一人の人物が立っていた。 


 天から降る雨の中、濡れることも構わず老人の歩行の支えとする杖をまるでそれが己の武器であるかのように振るっている白髪の老人がいた。


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