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72 信じられない!(『グランツ』 side)

『グランツ』 side


「テオ!大変なの!」

「僕の腕輪が細切れになってしまったんだ!」


「···フェリオもなの?」


「あー。もう少し落ち着いて話してくれないか?朝から騒がれても頭が回らん」


 それはそうだろう。寝起きに騒がれても意味が理解出来ないテオにとっては、雑音でしかない。


 そして、目覚ましの珈琲を飲んで、一息ついたテオの前に、糸くずが差し出された。それもフェリオとシアの二人からだ。


「ん?糸だな」


「はぁ。モナちゃんの腕輪がこんなふうになってしまったんだよ。こんなの初めてだよね」


 フェリオがため息を吐きながら言った。その言葉にテオは慌てて自分の腕に付いた腕輪を見るが、そこには何もなかった。急いで、自分が寝ていたベッドに戻ってみると、自分が付けていた色の糸くずが散乱していた。それをかき集め、二人がいるところに戻る。


「俺のもだ」


 その糸くずを二人に見せる。その見せられた物に二人の不安は一気に増してきた。


「僕、思ったんだけど、モナちゃんと話をしたほうがいいと思うんだ。あの時さ、モナちゃん言っていたよね。彼女たちに反応したんじゃないのかって、本当なら彼女達を直ぐに連れて帰らないと行けなかったんだよね」


 フェリオは辛そうな顔をしながら言った。


「そうだな。もし、あのまま俺たちも一緒に村に帰っていれば、俺たちも病に罹っていたのだろう」


「そうね。モナちゃんを待って、少し話をしてからでも遅くはないわね」





 そうして、3人はモナを待ち、細切れになった腕輪の原因は何かと探っていたのだ。


 3人は雪が降る街の中を歩いている。このメルトの街にある冒険者ギルドに行くためだ。


「まさか、封じられた神がいるなんてなぁ」


 テオがボソリと呟いた。それを、隣で聞いていたシアは『あら?』と声を漏らした。


「突拍子もない事や、意味が理解出来ない言葉を話すモナを避けていたのに?物さえ与えていれば、父親ズラしていればいいと思っていた癖に?モナの言葉を信じるのね」


「シア。それは昔の事だと、何度言ったらわかるんだ?親父さんの事を今でも根に持っているのはわかるが」


「シア。いつまでも過去の事を根に持つのは駄目だよ。あれ以来テオも変わったじゃないか。目の前でシアのお父さんを失って」


 フェリオがシアを諌める。シアの父親という事はモナの祖父に当たる人物である。モナが嫌な予感がするために行くなと引き止めたにも関わらず、出かけた先で命を落とした人物である。なんとその場にテオも居たようだ。


「根に持つわよ!父さんもテオも村の外の人だからわからないかもしれないけどね!」


 シアは怒っていた。そして、夫であるテオを睨みつけて言った。


「姫様の言葉を疑うなんて信じられない!」


 そう、シアは怒っていた。娘の言葉を信じずに自分の父親を見殺しにした夫にではなく。姫と呼ばれ大切に育ててきた娘の言葉を信じなかった父親と夫にだ。


「今は信じているじゃないか。だから、こうやってギルドに向かって行っているだろう?」


「私はおばぁちゃんになっても、いい続けますからね」


「はいはい」


「君たち相変わらず仲いいね。村に帰るのなら僕もトゥーリとイチャイチャしよ!」


 そんな事を3人が喋りながら歩いていると、剣と盾のマークが掲げられた看板がある建物にたどり着いた。


 中に入ると、そこは人気は少なく数人の冒険者とギルドの職員が居るだけだった。メルトはそれなりに大きな都市にも関わらず、朝の時間帯にここの冒険者ギルドは混み合っていない。やはり、雪に覆われた街であるが故に人の行き来は少ないようだ。


 フェリオは職員がいるカウンターに近づいて行く。カウンターには2人の人物が座っているが、その内のスキンヘッドの厳ついオヤジが座っているカウンターにフェリオは近づき声をかけた。


「メリーラちゃん!久しぶり!」


 フェリオは厳ついオッサンにメリーラと呼びかけた。するとスキンヘッドのオヤジはぶすっとした顔で


「メリーラドルだ!変なところで名前を切るな!フェリオ」


 メリーラドルと名前を訂正した。


「こんな辺境に『グランツ』の皆様が何のご用で?」


「受けた指名依頼をキャンセルしようと思ってね」


 そう言ってフェリオは人の頭ぐらいの大きさの革袋をカウンターの上にガシャと置いた。


「これキャンセル料。イルマレーラの遺跡調査はやめることにするよ。今、僕達の村に病が流行っていてね。余り遠出したくないんだ」


「流行り病?何のだ?」


「夏燥熱」


 するとメリーラドルはハッと息を呑む。それはとても恐ろしい病だ。治る見込みもなく高熱に苦しめられ干からびて死んでいく病だ。


「だから、キャンセルで」


「それはなんと言っていいか」


 治る方法が見つかっていないのだ。頑張れや心を強くもて、なんて言葉なんて意味をなさないのだ。


「そいうことなんで、よろしく!」


 の割には笑顔で冒険者ギルドを出ていくフェリオ。その姿にメリーラドルは首を傾げるのだった。



「フェリオ。少しは神妙な顔でもしなさいよ。あれじゃ、村に帰れて嬉しいのがだだ漏れじゃない」


 3人は冒険者ギルドを出て、それぞれの騎獣の手綱を持ちながら、街の外につながる門を潜っていた。


「いやー。嬉しくってつい。そう言えば」


 そう言って、門の外に出たフェリオは己の騎獣に跨る。


「モナちゃん。笑顔だったね。村じゃいつも気を張っているかのように警戒心むき出しだったけど」


「守護者という者を得たからか?」


 テオも同じ様に己の騎獣に跨って、首を捻っている。


「えー?ラブラブってことじゃないの?」


「それは無いわね。モナちゃんに何処までキトーさんといった?って聞いたら山頂までって答えたから」


 シアはフェリオのラブラブ説を否定した。


「そうなのかな?案外無自覚だったりして?」


 そう言ってフェリオはモナ達が去って行った。南の方角を見ていた。



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