71 廃墟都市ルルド····?
「古代遺跡の調査よ。そこから怪しい鳴き声が聞こえてくるから調べて欲しいって、変わった依頼」
古代遺跡?イルマレーラ?
私は記憶を掘り起こす様に『うーん』と唸る。古代遺跡····確かゲームではいくつか存在したなぁ。この大陸の古代遺跡のダンジョンは3つ。地底湖のロズワード。空中都市ネルファーキル。廃墟都市ルルド····。
廃墟都市ルルド!
「ルルド?」
「あら?モナちゃん知っているの?」
血の気がサーッと引く。あそこはかなり後半にならないと行けないところだった。それもあそこは
「駄目!そこに行っちゃ駄目!」
「モ、モナちゃん?」
「そこはアイテムがいる。『闇待月』が必要!だから、駄目!」
私の言葉にジュウロウザがビクッと反応した。そう、ジュウロウザが探してこいと言われた、次元の狭間にある闇待月。
「それが無い限り出て来れない。だから母さん行かないで!」
「モナ。出てこれないって、そこには何がいるんだ?」
いつの間にか父さんが近くに来ていた。
「『死して尚、封印せざる神のなれの果』」
名はなかった。恐らく、名を持って力を取り戻すことを恐たのだろう。
「それは確かにそれは荷が重そうだね」
うぉ!思ったより近くからフェリオさんの声が聞こえた。
「フェリオ、どうする?」
「そうだねぇ。モナちゃん?」
「な、なんですか?」
声近いよ。すごく近いよ。ジュウロウザの背中に隠れつつ、腰に付けている調教用のムチに触れる。いつでも振るえるように。
「もし、そのアイテムが無いとどうなるのかな?」
闇待月は封印を解く物であって、ダンジョンの攻略に必要なものでは無い。だけど、今存在する国がゲームの時間軸では存在せず、廃墟の都市になっていた。それに古代遺跡の機能も殆ど停止していて、行けるところが限られていた。
その現状から考えると何かしらの遺跡の防衛機能が働いて、街を中心に国を消滅させたと思われる。死した神を外に解き放たないように。
「国の消滅」
誰かが息を飲む音が聞こえた。
「それは流石に···」
信じられないと。まぁ、そうだね。所詮子供の戯れ言だ。証明しろと言われてもできるものじゃない。
「依頼はキャンセルだね。封印された神ほど恐ろしい者はいない」
あれ?信じてくれるの?
「そうね。村の現状を言って、落ち着くまで遠くの依頼を受けるのをやめるって言えばいいかしら?」
「シア。そうしよう!この前家に戻ったらソフィーにどちら様ですか?って言われたんだ!家でゆっくり過ごす事も大切だ!」
父さん、それはソフィーの贈り物に幸運の大蛇の抜け殻なんて送るからだよ。ソフィーは蛇が大の苦手な物なのに。
「そうね」
「じゃ、決まったならギルドに報告に行こうか。モナちゃんたちはもう、街を出るんだよね?」
私はジュウロウザの腕を叩いてフェリオさんの質問に答える様に促す。
「はい、南下してエトマまで行って、プルム村に戻る予定をしています」
「そうか、無理せずにゆっくり戻るといいよ。村の事は心配しなくても大丈夫だよ。みんな戻って来ているからね」
村の外に出ていた人達が戻ってきてくれているのなら安心だ。
やっぱり弱っているときに家族がいるのといないのとでは、気の持ちようが違ってくるからね。大切な人が側にいるって、とても安心感があるから。
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『グランツ』 side
門の外を見送る3人の男女がいる。その内、二人は人の目を引き付けるほど美しい容姿をしており、その二人を守るかの様に大柄の人物が背後に控えていた。
「モナちゃん。元気で良かったね」
キラキラとした笑顔を男性は隣の女性に向けている。
「ええ、本当に良かった。一時は自分の愚かさを呪ったわ」
美しい女性は風に煽られた白金の髪に白い雪を纏わせ、涙目で笑っている。そして、後ろに立っている体格がよい、正に戦士と言っていい偉丈夫は、女性の髪に付いた雪を払いながら言った。
「同じ誤ちを繰り返さなくて良かったじゃないか。今回は流石にヤバかったようだが」
そう、この者たちは娘を見送るためにロビーで待っていたわけではなかった。なぜなら、出発の別れは昨晩終わらせており、日が昇ると共に隣国に出発するつもだったのだ。
時は4時間前に戻る。
外はまだ暗く、日が昇る前である。しかし、空は曇天に覆われているため、外が明るくなるにはまだ時間がかかりそうだ。
シアはそろそろ起きて準備をしなければと思い目を開け、体をむくりと起こす。しかし、部屋の寒さにぶるりと震え、毛布に包まりたいとの欲求を振り払うかのように頭を振り、顔にかかった髪をかき上げたところで気がついた。
娘が作った幸運の腕輪がない事に、慌てて寝ていたところをみると、細切れに切れた糸が散乱していた。まるで刃物で切り刻んだかのように無惨にバラバラになっていた。
シアは慌てて隣で寝ていた夫を起こす。
「テオ!起きて!大変なの!」
しかし、隣に寝ているテオは起きそうにない。シアは寝ているテオの上に馬乗りになって、両肩を揺さぶり起こす。
「起きて!」
「シア!大変だ!」
その時、フェリオが部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのだ。ベッドの上の夫の上に馬乗りになる妻の姿これは···
「お取り込み中。ごめんね」
「ちがーう!フェリオ待って!扉を閉めないで!テオを起こして!」
慌ててシアはフェリオを引き止める。その、二人の声に流石のテオも目を覚ました。
「なんだ?朝から?騒がしい」