62 想定外(十郎左 side)
十郎左 side
崩れ落ちるモナ殿を抱き支える。これは俺の傲りが招いたことだ。
ドラゴンに襲われることは想定内だった。しかし、モナ殿がドラゴンに攫われるとは思いもしなかった。
事前に色々取り決めてはいた。モナ殿は雪華藤は幼竜の餌だから、親竜は餌場を守る為に現れる可能性が高いと言っていた。
だから、飛来するドラゴンに対処でき、モナ殿を守れる距離を保っていたはずだった。
いや、慢心だ。俺自身の突出した力への自惚れが招いたことだ。
それに加え、守護のスキルでステータスが全体的に上昇したことで、全て対処できると思い込んだ己の傲り。
まさか、この場に3体のドラゴンが飛来してくるなど想定の範疇を越えていた。
それも、赤い鱗を纏った火竜。この雪山にふさわしくない赤い色が視界をかすめ、視線を奪われてしまった瞬間に、モナ殿を空中に攫われてしまった。
すぐさま、刀を抜き斬撃を飛ばすことで、氷竜の翼を切り落としたが、その氷竜がモナ殿を解放したあと、それを見越していたかのように、別の氷竜がモナ殿をかっさらって行った。火竜は己の役目は終わったと言わんばかりに背を向け南の空に消えていき、モナ殿を攫った氷竜は山の頂上に向かった行った。
直ぐに追いつきたかったが、俺の目の前には片翼が切り取られた氷竜が立ちはだかる。
これはどういう事だ?普通にはこの雪山には存在しない火竜。それも、気を引き付けるという役目が終わった言わんばかりに去っていった。
なんだ?これは?モナ殿を攫うのが目的だったのか?氷竜が?
指笛を吹きベルーイに戻ってくるように合図を出す。余り時間をかけていられない。
山頂はここよりも冷えるはずだ。モナ殿の体力がいつまで保つかわからない。
刀を構え息を吐き、一気に氷竜との距離を詰める。大きな体の死角となる足元から一気に首元を狙い、刀を這わし、引き斬る。
氷竜は俺の動きにはついてこれず、首がゆるりと巨体から離れていき、次いで血が噴き出し白き雪原を赤く染めていった。
氷竜の体が倒れることを確認すること無く、山頂を目指して駆け出す。後方からドンと倒れる音に混じって、ベルーイが駆けてくる音が聞こえた。
並走してきたベルーイが頭を下げてきたので、鬣を掴み飛び乗る。手綱をつけるのは後だ。先にモナ殿を助けるのが先決だ。
しかし、流石に馬竜だ。他の騎獣よりも断然に脚が速い。これなら、直ぐに山頂にたどり着きそうだ。
山頂は立ち入るのを拒むかのように高い氷の槍に囲まれていた。それをベルーイが炎を吐き一角を溶かす。ベルーイは命令をせずとも何をすべきかわかっているようだ。以前から思っていたが、かなり頭のいい馬竜だ。
氷に囲まれた山頂の中央に、先程倒した氷竜より一回り大きな氷竜がいる。その足元にモナ殿がいた。顔色は悪いが怪我はしてなさそうだ。
その氷竜がこちらを向く。ベルーイに騎乗したまま刀を抜き、魔力を込める。
「烈火の破刃」
刃が緋の色に変わり熱を帯びる。そして、騎乗したまますれ違いざまに一刀両断。巨体は腹から真っ二つに分かれ、倒れかかっているモナ殿をベルーイから飛び降りて、抱きとめる。
大丈夫なのだろうか。様子を伺うっていると、後方でドスンと重いものが倒れる音が響き、その音が聞こえたのかモナ殿が瞳を開け、俺を見た。いや、視点が定まっていない。
「た··まごを··もっ··て···」
卵を持って?近くには氷竜の卵を思える、50セルメル程の卵がある。モナ殿はその事を言ったあと気を失ってしまった。
これから、どうすべきか。一番はモナ殿の安全だが、ベルーイで麓に戻るまでモナ殿の体力が保つか。俺もモナ殿のように他人のステータスが見ることができればいいのだが、それは適わない。
ふと視線をモナ殿の手元に向けると、竹筒?これは昨晩、汲んだ神殿の泉の水···モナ殿の手から竹筒を抜き取るが、中が凍っている。
これは回復をしようとして、出来なかったということか。考えている暇はないか。
モナ殿の鞄から昨日仕留めたスノーベアーの毛皮を取り出し、モナ殿にまとわす。
本当なら拡張収納機能が付いた鞄は使用者登録をして、その人物しか使えないようにするのが普通なのだが、モナ殿が『一番に倒れるのは私だから、鬼頭さんが使えないと困りますよね』と言って、敢えて使用者の登録をしていない。
そこから、テントを取り出す。テントを広げ固定し、モナ殿を抱えて中に入ろうとしたが、ベルーイはどうするのだろうかと、後ろを振り返れば、輪切りになった巨体に頭を突っ込んでいたので、放置でいいだろう。
あ、氷竜の卵か。モナ殿と籠。そして、氷竜の卵を抱え、テントの中に入る。
拡張機能のテントだが、やはり冷えることには変わりないか。
暖炉に火を入れ、骸炭を燃料として焚べる。火力が強くていいのだが、備え付けられていた在庫が乏しい。
物がなくなる前にモナ殿が回復してくれればいいのだが。
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