61 この状況はない
はい只今、私はとても冷たい氷の上に座っております。私の周りはキラキラした宝石や魔石が積み上がっており、目の前には赤子がすっぽりと入りそうな大きさの卵が鎮座しており、斜め上からは金色に光った目が私を見ているのです······。
いやー!!!!
な、なんてことだ!私はドラゴンにお持ち帰りされてしまった!それも、私の手には氷竜の幼竜が好む雪華藤。生まれてきた我が子に雪華藤を与え、人の味でも覚えさそうと私も餌にするつもりなのだろうか。
ああ、終わった。私の人生は今度はドラゴンのエサになることで終わりになるのかぁ。
しかし、その前に私の息が絶えそうだ。
この寒さ。いくら保温魔術が施された衣服を纏っていても、氷点下の冷気を纏う吹き荒む風が、氷竜が作り上げた氷の巣が、底冷えの冷気を私に運んでくる。この冷気に私の体力が奪われていっている。
はぁ。やはり、無謀だったのかもしれない。ジュウロウザがいるから大丈夫だと彼を頼りすぎてしまっていたのが、悪かったのだろう。まさか氷竜が2体いたなんて。
いや、考えればわかったことだ。卵があるのであれば、番の竜がいるというぐらいわかることだ。
そう、2体の氷竜。
空中に浮遊する私。
私の手には雪華藤が入った籠。
眼下に見えるジュウロウザが刀を抜いたかと思えば、ガクンと衝撃が来たあとに私は宙に投げ出され、凍りついた空気が撫でるように自由落下する。そして、急降下する私の背後で「グォォォォ」と何かが響きわたった。
恐らく背後にいた何かをジュウロウザが斬ったのだろう。····いや?どうなのだろう?刀は抜いているけど物理的距離があり過ぎる。
わからないけど、空中散歩から解放されたので一瞬これで助かった?思っていると、自由落下している私よりも速く地面に落ちていくモノの影を目にした所で、硬いモノに私は籠を抱えたまま正座で着地した。着地!!
真っ白なウロコが目の前にある。真っ白な雪のような鱗····ベルーイは黒なのでベルーイではない何かのおかげで私は雪が降り積もった地面に激突せずにすんだ。
頭を上げると、真横には鱗と同じ白い翼。進行方向には二本の角が生えた頭が見える。どう見てもここはドラゴンの背。
眼下には血を流しながらジュウロウザに向かっている白いドラゴン。
私の目にはドラゴンが2体映っている!
ないわー。この状況はないわー。
なんで、ドラゴンの背中に乗ってんねん!って一人ツッコミすべきところだろう。
私の運無限大はどこに行った!
いや、自由落下から雪の海にダイブすることを避けられたことが幸運?いやいや、その前にドラゴンに捕まるってことがないわー。
そして、ドラゴンの背に乗ったまま私は上昇し山頂の氷竜の巣と思える氷の巣に到着し、ドラゴンの背中から滑り落とされた。←今ここ
今の私のHPは13pになってしまっている。このままだと確実に死ぬ。はっ!神殿の泉の水があるじゃないか!
拡張収納の鞄から竹筒を取り出し、栓を抜き中の水を····あれ?一口分しか出て来ない。それも凍る程冷たい!!
も、もしかして竹筒の中で水が凍っている?HPは30まで回復した。したけれど、今度はスタミナゲージが半分に一気に減ってしまった。こ、これは失敗したかも!
この状態は雪山で遭難して食べ物がないため雪を食べて空腹をしのいだ為に凍死してしまう現象じゃないか!
寒い、体の中から冷えてしまった。
『···カ···ノ···』
これは、どうしたらいい?
『異界から来た者よ』
ん?
何処からか声がするが、寒さのあまり、歯の根が合わず、ガチガチという音に遮ぎられて何処から聞こえて来ているのかわからない。
「異界から来た者よ」
金色の目が視界を占めた。氷竜がしゃっべっている?
「頼みがある」
頼み?その前に私が死にそうだけど····。
「我らの子の運命を変えてはくれぬか?守ってくれぬか?」
子供?目の前の卵のこと?運命を変える?はぁ。言葉が頭から抜けていく。考えがまとまらない。
寒い。寒い。寒い。
「迎えが来たようだな。我らの運命が変えれなくとも、せめて新しい命を守ってほしい」
むか···え?意識が朦朧としていた。
卵?ドラゴンの卵。
霞んだ視界に青白い卵が映る。
手を伸ばすが、空を切り、そのまま体が傾いていく。ああ、このまま氷の地面倒れたら死ぬよね。
「モナ殿!」
私の体は地面に倒れることなく。誰かに支えられた。
「モナ殿!すまなかった。」
ああ、ジュウロウザか。あの氷竜はどうしたのだろうか。た、たまご。
視線を上げるが、うまく視点が定まらない。でも、これは言っておかなと
「た··まごを··もっ··て···」
卵を守って欲しい。
そこで、私の意識が途切れた。はぁ、私の人生は短かったなぁ。