54 支柱の陣
「大事ないか?」
気がつけば、背中を支える手があった。
クッ!コントかってぐらい足が滑った。ジュウロウザがいなかったら絶対に頭を打つコースだった。
「大丈夫」
そう言って体を起こす。そうだ!雪の日の通勤のように足元に注意を払えばいいだけ。雪国にいたことはなかったけど、大雪の出勤は経験したことはある。····まともに電車が動かなくて、長時間駅で待った記憶しか出てこない。だけど、大丈夫のはず。
慎重に左足を出すと、今度は足が後ろに滑る!
「モナ殿、怪我をしそうだから抱えて、中に入っていいか?」
私はまともに歩くことすらできないのか!
またしても、私はジュウロウザに支えられていた。
「お、お願いします」
悔しいー!私を抱えたジュウロウザは凍った雪の上をスタスタ歩き、階段も難なく上っていく。その横には同じくカポカポと歩くベルーイ。まともに歩けないのは私だけ!幼児並みのステータスはこんなところまで反映しなくていい。
階段を上がれば、建物の奥の方は闇に包まれ真っ暗だ。私が持っている魔道ランプでは奥の方まで見ることができない。
ジュウロウザはそのまま建物の奥に入っていく。ん?何か引っかかる。何かがあったような。
「キトウさん、少し足を止めてもらえますか?」
「どうかしたか?」
私の様子を伺うように顔を傾け、足を止めてくれた。だけど私は答えず、先が見えない暗闇に目を向ける。
このまま先に進むと何かがあったのだ。だけど、何かとは思い出せない。ただ、HPが1になってしまったので、全回復したのが良かった、としか思い出せない。
この暗さが駄目なのだ。何が先にあるかわからないこの暗さが。
私は周りを見渡す。まだここは建物の入り口近くだ。天井の開いた穴からの光で微かに、周りの風景を確認することができた。外側の柱に何かが描かれている。まとわりついた雪のその下にだ。その下には大理石のような白いなめらかな石が柱として存在しているのが、視えた。
「キトウさん、すみません。少し戻って、外側の柱の近くに行ってもらえますか?」
ジュウロウザは私がお願いしたとおりに、建物を支える一番外側にある支柱の一つに近寄ってくれた。支柱には青い色で見覚えのある陣が描かれていた。そう、私が今持っている魔道ランプの底に描かれている明かりを灯す陣だ。だけど、核となる魔石の存在が見当たらない。
青い線は支柱に陣を刻んでいるが、その下にも線が続いている。床だ。白く凍った床に青い線が続いていた。床の線を目で追うと、床には複数の青い線が引かれているのに気がつく。どうやら、一箇所に集まっているようだ。
「ここから3本目の柱のところまでお願いします」
その支柱は外側の柱の中心にある支柱だった。外側からでは気が付かなかったが、内側から見ると支柱の中ほどに六角形の形状に6つの何かをはめる穴が開いており、六角形のさらに内側には正方形に4つの穴が、一番中心点に一つの穴が開いていた。
私はその部分に触れようと手を伸ばすが、その手は柱に届かず宙を切る。なぜならジュウロウザが一歩下がったからだ。
どういう事だという意を込めて視線を向けると。
「モナ殿。素手で触ると手がくっついてしまう」
はっ!ドライアイス!
ってことは、外はドライアイス並には冷えているってこと?いや濡れた手だと氷もくっつくな。
じゃ、これもベルーイの炎で、溶かしてもらうか。
「ベルーイの炎で、表面の凍った雪を溶かしてほしいです」
私がそう言うと横から『キュキュ』っと鳴き声が聞こえ、青い炎が視界の端をかすめる。
ん?ベルーイは私の言葉に反応した?
「ありがとう」
ベルーイにお礼を言うと『キューン』と鳴き声が聞こえた。相変わらず見た目と鳴き声が合わない可愛らしい声だ。
表面の雪が溶けた柱を見ると、10セルメルの厚さの雪の塊の下には私の眼で見た通りの紋様と窪みが刻まれていた。
ここに動力源を入れればこの陣が起動するはず。
「キトウさん。降ろしてもらえますか?」
私が持っている動力源は魔石だけど、これが合わなかったら、暗闇の中を進まなければならない。
魔石が入った袋の中から大きさが合いそうな魔石を窪みの中に収めてみる。コトリとはまった。よし。また一つ、また一つと収めていく。あまり大きすぎない穴でよかった。外側の穴は直径3セルメルほどで内側の4つの穴は直径5セルメルほど。中央は一番大きく7セルメルほどだ。これが、20セルメルを超えると流石に手元にはなかった。
いや、神殿を参る時に必要なら、手に入りやすい大きさにするのは当たり前か。
うっ。上の方に行くと手が届かない。もう少し低いところに設置すべきじゃないの!
「手伝おう」
そう言って、ジュウロウザが残りの魔石をはめてくれた。
すると、青い線が光を発した。魔石をはめた支柱中心に光が広がっていく。全体的に広がった光る線が一瞬目が眩むほどの光を放った。
眩しすぎて目が開けられない。
瞼の裏に感じる光が収まったと目を開くと、そこは闇に満ちた神殿ではなく。床も支柱も天井も淡く光と放っていた。そして、その床も支柱も天井もバキッという音とともに一斉にヒビが入る。
壊れる!そう思った瞬間。建物の全てを覆っていた凍りついた雪が舞い散った。
建物を構築している光る石に照らされ、淡く消え去る雪がキラキラと輝いてみえる。幻想的だ。
これが、神殿の本来の姿なのだ。全てが淡く光輝く神殿。