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5 繋いでいる手

「おねぇちゃん。ご飯持ってきたよ」


 ソフィーがそう言ってトレイの上に夕飯を持って来てくれた。そのトレイをベッド横のテーブルに置いて、寝ているジュウロウザを覗き見る。


「よく寝ているね」


「そうだね」


 そして、ソフィーもばぁちゃんと同じく私の手とその先を見て、ニコリと笑った。


「本当にお手々繋いでいるんだね」


 いや、だからこれは必要なことだ。


「仲良し?」


 だから、違う。


「ばぁちゃんから聞かなかったの?」


「聞いたよ。LUKが悪いって、それ本当?」


「そう、今やっとLUKが0(ゼロ)までになったけど、今は1と0を数値が行き来しているの。この現状に1から0に移行する何かが発生しているとしたら怖ろしくない?」


 私はずっと彼のステータスを見ていたが、LUK1から上がらなくなってしまった。

 それがゼロ、イチ、ゼロ、イチ、を繰り返している。怖ろしい。


「ふーん。この兄ちゃんは手を繋げられるんだね?」


 手を繋げられる?不可解な言葉をソフィーが言った。私が怪訝そうな顔をしているとソフィーは繋いでいる手を指して言った。


「だってリアン兄ちゃんとは絶対に手を繋がなかったのに」


 そのソフィーの言葉を聞いた瞬間、苛立ちが沸き起こった。ギリッと奥歯を噛みしめる。リアンと手を繋ぐ!冗談じゃない死んでもごめんだ。


「あ、ごめん。忘れて」


 ソフィーは慌てて言って部屋を出ていった。きっと私は般若のような顔をしていたのだろう。


 幼い頃は手を繋いでいることもあったが、ソフィーが物心がついた頃には私はリアンと微妙な距離を取っていた。

 そう、リアンと私の間で一番問題になったのがステータスの差だ。歩く速さが違うのは勿論、握力の違いもあった。掴まれた手首にヒビがいったのが1度。肩の関節が外れたのが5度。腕の骨が折れたのが1度。

 私は全くもって力の加減ができないリアンと手を繋がなくなった。


 カスステータスの私はきちんと考えている。動けない怪我人のそれも左肩を怪我をして動かせないであろう手を握っているのだ。

 しかし、自動回復スキルがあるので、朝までには完治するだろう。完治すればさっさと、ここを出ていってくれるはずだ。それまでのことだ。

 私は左手でソフィーが持って来てくれたパンを手に取りかぶり付く。ふんわりと甘い香りが口の中を満たした。中にはドライフルーツが練り込んであり、ほのかに甘みのあるパンだ。片手しか使えないからこれを用意してくれたのだろう。先程の荒んでいた心が満たされた。もう、リアンに振り回されることはないだろう。




 夜明け前、早起きのばぁちゃんに怪我人の怪我が完治したようなので、起きたらさっさと村から追い出すようにと言って、私は自分の部屋に戻って眠った。

 混ぜるな危険。私の命の危機は遠ざけなければならない。なんせ私は運だけがいい人に過ぎない。降って湧いた力の暴力に抗うことができない矮小な村娘でしかないのだ。




 人の笑い声で眠っている意識が浮上した。この声はルードか。窓の外を見ると雲一つない青い空が広がっており、太陽は空高く上っていた。どうやら昼の時間まで寝ていたようだ。もう、あの怪我人は村を出ていっただろう。


 着替えて、部屋を出て裏口から外に出る。裏には井戸があり、桶を放り込んで水を汲みあげる。

 上下水道が整っていた記憶がある私としては不便だと思ってしまうが、16年も生活をしていれば、こういう不便さも普通のことと受け入れられる。


 汲み上げた水で顔を洗い。そういえば昨日はお風呂に入っていなかったなと思い出し、そのまま桶を手にして頭から水をかぶる。もう一度水を汲み、再び水かぶる。

 季節は初夏に差し掛かろうとしている時期だ。昼になると少し日差しの強さに汗ばんでしまう。その暑さを冷ますように井戸の水は冷たくて気持ちいい。


 あ、生地がゴワゴワするワンピースを着たままだった。しかし、日本という国で暮らしていた記憶を持つ者としては、お風呂に一日一回は入りたい。入れないのならシャワーを浴びたいが上水道が整っていない村では井戸の水をかぶる事で代用するしかない。

 ルードが来ているのなら、リアンも来ているだろう。絡まれる前にさっさと部屋に····あ、そうだったリアンはもう王都に向かって行ったのだった。


 私は水が滴っているミルクティー色の髪を絞り、薄い水色のワンピースも絞り、水気を取る。後は私の雀の涙ほどのMPを消費して温かい風を巻き起こす。これはドライヤーがないこの世界で髪を乾かすために、血反吐を吐きながら習得した魔術だ。主にMPの消費を抑える為に努力をしたため、生活魔術なら1日3回ぐらいは使えるようにはなった。


 髪とワンピースが温かい風に舞い踊る。本当に魔術というのは便利なものだ。

 庭の方からこちらにやってくる足音が聞こえる。ルードが今日の採取の付き添いにきてくれたのだろう。昨日はレア素材は採取できなかったので、今日は採取しておきたい。今日は北側に行こうか、そう思いながら振り返る。


「ルード。今日は北側に····」


 私は目を見開く。なぜ、私の目の前にジュウロウザがいるのだろうか。



誤字脱字報告ありがとうございます

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