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48 旅商人エクス

「ギャー!死ぬー!!」


 そう言いながら斜め横に跳びながら器用に熊の攻撃を避けている。その熊はというと鋭い爪を振り上げ、獲物である人を狙っていた。額には一本大きな角が生えており、口からは鋭い牙がむき出して、ヨダレが滴っている。

 逃げている人を食べる気満々だ。


 今度は鋭い角で獲物を突き刺すように、人に向かって頭突きをするが、またしても器用に横に跳んで大荷物を持った人物は避ける。


「キトウさん、あの人助けてもらえますか?知り合いなんです」


「了解した」


 その言葉と共に横向きに座っている私の横に風が吹き抜けた。思わず、バランスを崩してベルーイのたてがみを掴みなんとか留まる。

 ジュウロウザ!普通に降りて行ってくれ!


 そう文句の視線をジュウロウザに向ける為に顔を上げると、熊が袈裟斬りにされ、血を噴き出して倒れて行くところだった。

 早っ!


 大荷物を背負った人物はジュウロウザの姿を見ながら尻もちを付いていた。

 しかし、相変わらず器用に魔物から逃げるものだと思いつつ、肩で息をしながら『助かったー』と言葉を漏らしている人物に話しかける。


「エクスさん!アネーレさんはどうされたのですか?」


 私の声に驚いてようにこちらに振り向き、雪の上をよつん這いで這いながらこちらに、やってきた。なんだか、虫みたいで怖いんだけど。


「ひめー!ひめがいる!ああ、僕は天国にきてしまったのか」


「私を勝手に殺さないでください!アネーレさんはどこですか!」


 私を殺さないで欲しい。モコモコのフードを取り、ベルーイの近くで頭を下げた人物。灰色の髪を持ち、眼鏡の奥は藍色の瞳のひょろっとした男性は旅商人のエクスさんだ。彼は、旅をしながらあちらこちらの珍しい物を商品として売り歩いているのだ。


「ア、アネーレはスノーウルフの大群を足止めをしているんだ。僕は助けを呼ぶために山を降りていたんだが、僕自身も魔物に襲われてどうしようかと。ひめー!助けてくれないか?」


 スノーウルフの大群を一人で!それは無理じゃないのだろうか。


「前から言っていますが、私の名前は『ひめ』ではありません。それから、私は魔物討伐はできませんよ」


「ひめが来てくれたのなら、百人力だ!」


 相変わらず話を聞かない、エクスさんだ。私はひめではないと言うのに。


 ザクザクと雪を踏みしめて、大きな熊を引きずりながらジュウロウザが戻ってきた。なぜ、熊を持ってきたのだろうか。


「モナ殿、その人は誰だ」


 ああ、知り合いだから助けろと言ったから気になったのか。


「旅商人のエクスさん。間違えて『わらい茸』を食べて、高笑いしながら村に迷い込んできた変人です。エクスさんがどうなろうと構わないのですが、奥さんがプルム村の人で、今、スノーウルフと戦っているそうです」


「変人···どうでもいい····酷いよ。ひめー!」


 いや、このエクスさんの回避能力はとても高い。俊足のスキルを持っているので、魔物から逃げ切るのはお手の物だ。今回も手伝わなくても、山を降りて逃げ切ることはできただろう。


 今回助けたのは勿論、エクスさんの妻であるアネーレさんが見当たらなかったからだ。囮にして逃げたと言うなら、殴ってやるところだった。いや、そうなると私の手が大打撃をうけるので、ジュウロウザに頼もう。


「どうでもいいので、アネーレさんを助けに行きたいです。それで、その熊はどうするのです?」


 ジュウロウザが引きずっている熊を指差す。血の跡を雪の上に一直線に引きながら。こちらに来られても困るんだけど。


「ああ、毛皮がいい金になるのだ。どうするかと相談しようと思ったんだが、先にその人を助けに行った方がいいな」


 私は、雪の上で妻のアネーレさんを助けて欲しいと懇願しているエクスさんと血まみれの熊を見る。


「エクスさん。熊の毛皮を剥いで待っていてもらえます?」


「え゛?」


「キトウさん、行きましょう」


 ジュウロウザは熊を雪の上に置いて、ベルーイに飛び乗ってきた。


「ひめ!ちょっと待って!」


 私を呼び止めるエクスさん。しかし、私はエクスさんを見下ろし言った。


「エクスさん。逃げ足だけは早いのですから、商品と熊ぐらい背負って、魔物から逃げられますよね」


「それ、無理だからぁー!」


 その叫び声を背後に聞きながら、ベルーイは雪山を登り始めた。


「少し速度を上げるから、掴まっていてくれ」


 え?何処に?


 ガクンと横に傾く。いや、速度が上がったことで、ジュウロウザの方に倒れてしまったのだ。


 ジュウロウザは私を支えながら手綱を握っている。器用だな。しかし、速度が上がると振動が増える。でも、我慢だ。人の命には変えられない。


 ベルーイは思っていたより凄い!こんな雪山を平地と変わらない感じで進んでいく。珍しいと言われる馬竜だけのことはあるということか。


 獣の低く唸る声と高く鳴く声が交じる音が耳に響いてきた。近くまできたようだ。


「あなた達!ここに来ては行けないわ!」



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