47 雪山での出会い
白い雪で目が痛くなるほどの晴天。その街の中を馬竜のベルーイをつれて歩いている。
昨日の襲撃者はどうやら隣国の人たちだったらしく。若い娘がこの国境地域で行方不明になることが多く、隣国の奴隷商人が関わっているだろうということは予測をしていたが、実態がつかめなかったらしい。今回、その奴隷商人と部下数名を捉える事ができたらしく。これで、攫われだ娘たちの行方を探す事ができると言われたそうだ。
北の国の奴隷商人?あれ?南のコストール国のイベントで『行方不明の少女の足取りを追え』で、捕まえた奴隷商人のことかな?まぁ、いいか。
ジュウロウザの装備は朝の内に購入したようで、今は夏国の装備を身につけている。一番近い形は深衣だろうか。上は着物のように合わせになっており、腰帯で留め、足元は長めのワンピース状になっている。それに保温魔術が衣服に施されているのだ。
店の人には胸当てなどの防具を勧められたようだけど、断ったと言っていた。
その上から外套を羽織っているので、見た目には何も変わっていない。そう、何も変わっていないのだ。
私はというと、ムームーという羊に似た毛で作られたワンピースに下には同じくムームーのズボンを履き、編み上げブーツの中に押し込め、カーバンクルの外套を羽織っている。見た目は白い雪ん子だ。まぁ、これも保温魔術が施されているので温かいから、問題はない。保温魔術って凄いね。
そして、私達はシュエーレン連峰に登る入り口の山道に入った。山道と言っても雪で埋もれているので道なんてあったものではない。ただ、木の棒が雪の中に刺さっているのだ。それが山道の目印。
ベルーイはその突き刺さった棒から外れないように山道をも登っていく。そのベルーイにも雪山用の装備を装着している。体を覆う毛皮が増えただけだが、見た目は背中がもふもふの馬?しかし、私の求めるもふもふにはほど遠い。
私は大まかな地図を手に、とある場所を指し示す。
「この場所目指してください。今日だけでは目的地に着きませんので、ここで一泊します」
今登っている山ではなく、2つ谷を越えた先の山だ。ということは山道を外れ、道なき道を行くということになる。だが、目印はある。こんなに晴れているのなら特に見える。竜の巣がある山頂だ。キラキラと氷の巣があるので光が反射して、山頂が輝いてみえる。その山の8合目あたりに雪華藤が存在するのだ。いや、雪華藤があるから氷竜の巣があると言っていい。幼竜は雪華藤をたべて育つと言われている。子育ての為に巣を雪華藤が咲く近くに作っているということだ。まぁ、これもゲームの情報だけど。
そして、私が指し示した場所は、朽ちた神殿がある場所だ。昔はその神殿が使われていたが、神殿が麓に移り、今は廃墟となっている。
そう、この神殿が問題の白月香を神事用に清めるために用いられた湧き水があるところだ。ただ、ここに安全に来ようと思えば夏の数日しか来れないため、麓に神殿を移したというわけだ。
「ん?ここだと別のところから登った方が良かったな」
ジュウロウザが地図を見ながらそう言ったが、神殿がある麓から登ればスムーズに登れたのではということなのだろう。しかし、地図には書かれてはいないが、この山は麓から登れないのだ。
「キトウさん、この山の麓は神殿がありますが、その背後は切り立った崖なので、登れません。ですから、別のところから登らなければなりません」
だから、メルトがある麓から登るのが一番いいのだ。山越えの為にメルトから隣国に抜ける山道を使い、人が行き来をするので、ある程度途中まではメルトから伸びる山道が使える。その後は昔使われていた旧道を通ればいいのだが、ゲームではジュウロウザを連れていたので散々だった。魔物に襲われるのは当たり前だったし、雪崩、落石、こぶし大の雹、ホワイトアウトなどの自然現象により、まともに進めなかったのだ。
今のこの状況で旧道を進めるとは確証が無いので、口には出さないでいた。
ベルーイがザクザクと雪の上を進んでいく、私は揺られながらその上に鎮座しているが、平和だ。ゲームは散々魔物に襲われていたのに、平和だ。
そんな真っ白で平和な世界に野太い悲鳴が響き渡った。
「ギャー!助けて!!」
前方から声が聞こえてきた。眩しい世界に目を細めながら、声の主を確認すると前方から大荷物を背負った人物が、雪の中を全力疾走でこちらに向かって来ている。その後方から白い毛を纏った獣····いや熊だ。熊に追いかけられている。それも、逃げる人の対比からみればかなり大きいようだ。
四足で獲物を追う巨大な白い熊。全力疾走で逃げる人。
こっちに向かって来ているけど、これヤバくない?