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35 手から離れた手紙

 人々のざわめく声。

 スマホから鳴り響く電子音。

 朝から私の心を映したかのような土砂降りの雨。


 駅の階段を駆け上がり、目の前のドアを全開に開いている電車に乗ろうとするが、あともう少しというところで出発のアラームがなり、扉は閉じてしまった。


 仕方がなく、ホームに書かれている印の先頭に立つ。


 今日は朝からついていなかった。いや、郵便受けに手紙が入っていることに昨日気が付かず、朝出かける時に気がついてしまい、乗るはずのバスに乗り遅れ、バスを待っている間に車から水をかけられ、今足元が濡れているのだ。それもパンプスの中まで濡れている。最悪だ。


 ホームに立ち、郵便受けにあった手紙を鞄から取り出す。差出人を見ると『青木 響也』何度見ても間違いはない。一年前に別れた彼氏だ。


 学生時代から付き合っていた。社会人になっても、その関係は変わりはなかった。社会人になって6年経ち、ある日響也から大事な話があると呼び出された。

 もしかして、そろそろ結婚?なんて浮かれて待ち合わせ場所の行きつけの喫茶店に入って行った。


 そこには、私にはもったいないくらいにかっこいい響也がいた。そして、ドキドキしながら響也の言葉を待っていた。


「パリ支部に行くことになった」


 あ!もしかして、付いてきてほしいってこと?


「だから、別れよう」


 ·····わかれよう?なにそれ。


「互いに仕事もあることだし」


 その言葉を聞いて私は冷静になった。


 ああ、よくある仕事を理由にして別れ話を持っていくっていうやつね。もともと私と響也は釣り合わなかった。なんでもそつなくこなす響也に対して私は努力をしないと駄目だった。

 私より料理が上手なんて悔しかったから、こっそり料理教室にも通ったぐらいだ。そこで、20リットルの味噌を手作りさせられたときは一人暮らしに味噌20リットルってと途方に暮れたこともあった。


「そう、わかった。響也の所に置いてある私の荷物は送り付けてくれていいから」


 そう言って私は立ち上がる。


「あ!ちょっと待って!」


 響也から出てくる私を否定する言葉を聞きたくなくて、足早で喫茶店を出ていった。


 それから1年、響也から送られていた手紙。一体何が書かれているのか。パリ美人の恋人でもできたという報告だろうか。それとも結婚式の招待状だろうか。もし、そんな物を送りつけてきたのならビリビリに破いて燃やし尽くしてやる!


 ああ、なんだ。私、未練たらたらじゃない。


 しかし、後ろの学生うるさいな。いつもは2本早めの電車に乗るから学生と乗ることはないのだけど。


「この動画すごくないか?」

「どれどれ」

「俺にも見せろよ」


 ああ、学生時代は楽しかったな。


『3番線に列車がまいります·····』


 アナウンスが聞こえてきた。私は電車がホームに入って来ることを横目で見ながら、手紙を鞄にしまおうと右手を鞄に


「あっ。わりー」


 そんな声と共に背中に突き放つような衝撃を受けた。私はバランスを崩し、前のめりに倒れる。


 あ!手紙が!


 私の右手から離れていく手紙。

 それを追いかけようと体をひねる。

 そんな私を驚愕な目で見る人々。

 私に降り注ぐ冷たい雨。

 私を照らす電車のライト。

 ぐしゃっという音と衝撃と共に暗転した。





「大丈夫か?怖い夢でも見たのか」


 声のする方に視線を向ける。けど、暗くてわからない。でも、私の隣にいるなんて響也だろう。


「夢。夢かー。響也。あの手紙になんて書いてあったの?私、無くしてしまったの」


 私は響也に抱きつく。

 だけど、響也は固まってしまって、抱き返してくれない。

 ああ、これも夢か。響也に未練たらたらのまま死んでしまった私に別れの言葉でも言えってことなのだろう。


 私は顔を上げて困惑している顔をしている響也にやさしいキスをする。


「響也。ありがとう。大好きだったよ」


 そう言って、私は再び眠りに入った。




十郎左 side


 モナ殿が夜中にうなされていたので、起こしてみれば、泣きながら聞いたことのない言葉で話しかけていた。いや、時々は耳にしてた。モナ殿が一人ごとを言っているときだ。聞き取ろうにも言葉が理解できない言葉だ。


 特に今日のギルドに向かっている途中のことだ。人がたくさん行き交えば肩が当たることもある。そんな中モナ殿は後ろから当たってしまった人に異常に反応したのだ。

 その後だ。何かを呟いていたのだが、全くもって言葉がわからなかったのだ。違う言葉を使うなんてそんな種族は存在しないはずだ。しかし、エルフの末裔になると違うのだろうかとその時は納得することにした。


 しかし、今はどうだ。恐らく寝ぼけていたのだろうが、俺を別人と思って話しかけていた。


 キョウヤとは誰だ?


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