31 大丈夫まだ生きている
その後、順調に進んでいき、夕刻の日が沈む頃に水の都ラウリーにたどり着き、翌昼には王都に着いた。
しかし、随分ゆっくりとした速度で馬竜は移動していたのにも関わらず、路線馬車の予定と変わらなかった。それも、王都にたどり着いたのは路線馬車とほぼ変わらず、前方に馬車の姿を確認できる距離だった。
不思議だ。
王都の外にある馬車留めにたどり着いた草臥れた姿の御者や護衛の冒険者たちを横目に私達は王都の中に入っていく。
王都も高い石壁で囲まれており、金属製の大きな外門が今は大きな口を開け、人々を出迎えていた。そこでは検問があり、犯罪歴を調べる水晶に手をかざし問題がなければ中に入れるという仕組みだ。
そして、検問も問題なく終わり私は王都の中に一歩踏み入れる。そこは今までの通ってきた街以上に活気に溢れた世界だった。
ああ、まるでゲームの街に入り込んでしまったみたいだと感じてしまったが、ゲームの世界だった。
なんとなくゲームの王都の中を思い出してきた。あそこの果物屋ではミニゲームがあったなとか、時々現れる露天商の婆さんに王都の地下の依頼を受けたなと頭の中を過ぎってくる。
「モナ殿。これからどうするんだ?」
ジュウロウザが馬竜の手綱を引きながら声をかけてきた。私はというとフードを深く被って、ジュウロウザの左腕を掴んで歩いている。こんな人が多いところではぐれたら、ゲームでの知識で迷子にはならないが、人攫いに会えば村に戻れなくなるのは確実だ。
というか、人が多すぎる。まるで、休日の某テーマパークのようだ。
「先に今日、泊まるところを探しましょう」
こんなに人が多いところで馬竜がいると行動範囲が限られてしまう。今日、泊まるところを見つけて、預かってもらうのが先決だ。
しかし、全く条件の合う宿がない。いや、王都だから高級な宿屋はあるのだ。しかし、そこがことごとく埋まっている。
どうやら、勇者のお披露目パーティーがあったらしく、王都にタウンハウスを持ってない貴族やこの国の有力者などが泊まっており、ついでに王都観光をして帰ろうと連泊をしているため空きがないようだった。
妥協に妥協をして、私から言うとビジネスホテルぐらいの部屋に妥協した。
ベッドが2つと二人がけのソファがローテーブルを挟んで2つ。それだけでいっぱいになる部屋だ。食事も付いておらず、宿の人に食べたければ外で食べるように進められた。まぁ、食べるところはたくさんありそうだからいいけど。
なぜ、この宿に決めたかというと、馬竜が入るような騎獣舎を持っていて、空きがあるのがここぐらいしかなかったからだ。そう、凶暴な馬竜を連れていると言った時点で断われ続けたのだ。
昼に王都に入ったにも関わらず、今は夕刻になっている。昼からずっと探し続けて今の時間だ。流石に疲れた。しかし、冒険者ギルドに行かないといけない。そして、『翠玉の剣』と『金の弓』に依頼を出すのだ。
「モナ殿、明日でもいいのではないのか?」
ジュウロウザが心配そうに声を掛けてくれたが、はっきり言って人が多い王都には居たくない。明日の朝にはさっさと王都を出発して村に戻りたい。なんだが、心の中がモヤモヤとする。『ここは私の居場所じゃない』そんな感じだ。
「キトウさん。やることをさっさと終わらせましょう。ついでに夕食も食べてしまいましょう」
と言いつつ私は宿のソファで項垂れている。疲れた。宿探しがこんなに大変だとは思わなかった。それも騎獣が受け入れられないなんて!私のLUK無限大はどこに行った!きちんと仕事をしろ!
はぁ。わかっていますよ。そんなステータスに頼ってもサイコロのゾロ目が出る確率が上がるようなものだってぐらい。
私は重い体を起こして立ち上がる。このままだと本気で寝てしまいそうだ。
「冒険者ギルドに行きましょう。確か、東門の方でしたね」
そして、宿を出て東門の方に向かて行く。冒険者ギルドがあるのもゲームと変わりない。
はぁ。しかし、人が多すぎだ。勇者が選ばれてお祭り騒ぎなのはわかるけど、あのリアンだし、そんなに浮かれることはないと思うのだけど。
その時、背中に何かがぶつかった衝撃があった。
「あっ。わりー」
そんな声が耳をかすめる。
その瞬間、ある風景がフラッシュバックした。
人々の驚愕する顔。
私を照らす白い光。
手から離れてしまった1通の手紙。
宙を舞う私の体。
そして、強烈な衝撃。
思わず座り込む。多くの人が往来する中、立っていられなくなった。
心臓がバクバクしている。
大丈夫まだ生きている。
深呼吸をして息を整え、右手を開いたり閉じたりしてみる。
大丈夫、私は息をして生きている。まだ、生きている。大丈夫。
そう、自分自身に言い聞かす。大丈夫。大丈夫。