28 約束をしたよな
「キトウさん。お幾らになりました?」
私はジュウロウザに馬竜の値段を聞いた。母からお小遣いを貰ったので、それで支払えればいい。
「支払いは済ませた。モナ殿のお父上から多めに依頼料をいただいたから、それで賄った」
いや、それはジュウロウザの報酬であって、騎獣の支払いに使っていいお金ではない。
「それはキトウさんの報酬ですよね。母からいくらか小遣いを貰っているので、それで支払いますよ」
「こういう時に使うお金込みの依頼料だから、モナ殿が気にすることはない」
気になるから!絶対にあの馬竜は高いよね。歩きながらジュウロウザを睨みつけても、素知らぬ顔で進んでいく。
はぁ、リアンなら折れるまで問い詰めるけど、ジュウロウザにはできないな。仕方がない。私は私の欲しいものを買おう。
しかし、いったいどこに向かっているのだろうか?街の出入り口に当たる外門の方に向かっている気がする。
「キトウさん、どこに向かっています?私できれば、食材と調理器具が欲しいのですけど?」
「冒険者ギルドのあるところだ。そこに行けば大体の物が揃えられるからな」
ああ、冒険者御用達のお店ってことか。そこなら、外で使える調理器具もありそ·····う?
あ?
私は足を止め、ジュウロウザを掴んでいた手を離す。そして、道沿いに並んでいるガラクタのような雑貨が置いてある露天商の前まで足を進めた。
ふふふ。私は見つけてしまった。実はその露天商が気になり、真眼を使って横目で見ていたのだ。前から欲しいと思っていたものが、二束三文の値段が付けられ売っているではないか。
銅貨3枚。1500Gだ。
見た目はただの肩掛け鞄。それも布製で汚れが目立つ。いわゆる小汚い鞄だ。
私は銅貨3枚を露天商の店主に差し出して、小汚い鞄を指し示す。
「これ、いただけます?」
「ああ、銅貨3枚。····ちょうどだ。持っていきな」
愛想のない店主だ。まぁ、ガラクタのような物ばかりを売っているので、元から商売っ気はなかったのだろう。
私は、小汚い鞄を手に取り、ほくそ笑む。そして、振り返れば、何故か機嫌が悪そうなジュウロウザがいた。
「モナ殿。気になるものがあるなら、そう言ってもらえるか?」
ああ、私が手を離した事が問題だと?いや、少しぐらい離したところで、早々に魔王が降って来るわけではないことは、検証済なので、何に問題があるのか、首を傾げてしまう。
「何か、問題ですか?」
「はぁ」
何故か。ため息を吐かれてしまった。
「約束をしたよな」
おお、町中ではフードを被ることと、人と話さないっていう約束か。え?商品を買うのに話しかけるのも駄目ってこと?それは、いくらなんでも厳しすぎないだろうか。
「商品の購入くらい人と話してもいいと思います」
「モナ殿。これ程大きな街だといろんな人がいるんだ。いや、後で話そう。先に買うものを買ってしまおう」
ジュウロウザはそう言って私に歩くように促した。確かに、大きな街だとたくさんの人がいるけど、それの何が問題なのだろうか。
私はジュウロウザの腕を掴んで歩きながら、首を傾げるのだった。
目的の物は揃える事ができた。しかし、すごい量になってしまった。ここで先程買った小汚い鞄が役に立つのだ。そう、これは収納拡張が施された鞄だ。ただ、術を発動するための魔石が外されいる。そのままではガラクタでしかない。しかし、私の手元には良質な魔石があるのだ!
生活魔術のクリーンを掛け、きれいになったクリーム色の鞄をだす。
魔石があったであろう金具にサイズが合いそうな魔石をはめてみる。お、何となくはまりそう。無理やり押し込むと入ったのでこれで良しとする。本当は加工をすべきなんだろうけど、今ここで必要なのだ。
私は大量の荷物と共に街の外にいる。なぜ、街の外でこんな作業をしているかといえば、ジュウロウザに怒られてしまったからだ。別に買い過ぎで怒られたわけではない。
いや、少し買うものが多いのではないのかと言われたのだ。だけど私は美味しいものが食べたいということは譲れない。だから、ジュウロウザに言ったのだ。
「キトウさん。大丈夫です。その為には先程買った鞄が役に立つのです。拡張収n·····」
最後まで言えなかった。
私は、ジュウロウザに抱えられ、店を連れ出されていた。
は?意味がわからない。なぜ、店から連れ出されるのか、理解ができない。
そして、建物と建物の間の路地に降ろされた。
「モナ殿。先程は何を言おうとしたのだ?」
え?わからずに連れ出したの?
「拡張収納鞄があります」
言おうとした言葉の続きを言ったら、上からため息が降ってきた。
「はぁ。モナ殿、それがどれだけ希少な物か知らないのか?」
「知っていますよ。普通なら星貨3枚は必要でしょうね」
一度買おうとしたのだ。しかし、いつも使っている荷車の量ぐらいしか収納出来ないのに、星貨3枚、600万Gもしたのだ。過去の友人が「俺の車は2シーターだと」自慢していた軽トラより高いのだ。
「そんな物を持っていると知られればどうなるかわからないか?」
······取られる?
「盗まれる?」
「普通は使用者権限が登録されているので、使用者ごと攫われるんだ」
うぇ?攫われる!それ、犯罪じゃない!盗むのも犯罪だけど、誘拐はもっと駄目だ。そんな事をされれば、私に抵抗する力はないので、扱き使われてしまう人生になってしまう。恐ろしい。
思わず体がブルリと震えた。
そして、馬竜を連れて店に戻って、商品を購入してから、街の外に出たのだ。
私の手には拡張収納された鞄がある。私の目で視てみれば倉庫1棟分の量が入るようだ。流石、良質な魔石を取り付けただけはある。
思わずにんまりとほくそ笑んだ。