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2 元凶はクラッシャーだった

「モナおねぇちゃん。もう、家に帰ろう?」


 そう言って私の手を引っ張るのは11歳になるルードだ。リアンに似て金髪に澄んだ青い瞳、まだ幼く可愛らしいという言葉が似合うが、将来はイケメンになる事間違いなし!それに、あの馬鹿リアンの弟と思えないぐらいしっかりしている。


 確かにいつまでも見えなくなった馬車を睨んでいても仕方がない。今日の仕事をしていかないと。この小さな村で生きていくには必要なことと、私はルードと妹のソフィーを連れて歩きだす。


 しかし、このモナになって考えればあの最悪最低カスヒロインの行動も理解出来るというものだ。

 もし、ハーレム状態でリアンが村を訪ねて来たとしたらきっと私は、リアンの胸ぐらを掴んで『やる気あるのか?ああ゛?!』と言っている自分に思い至る。そして、そうならない為にルードとソフィーに引き止められているのも想像がついてしまう。

 その姿を表に出さない為、リアンにばぁちゃんが『隣町に行った』というのも想像できてしまう。


 あと長期間村を離れるとしたら家族が心配だというのもわかる。


 私の家はばぁちゃんと私とソフィーだけで暮らしている。両親はといえば、高ランクの冒険者のため国内外から呼ばれ、仕事をしているらしい。時々、手紙と共に来る小荷物にはその国の名産品が入っていたりする。

 手紙には『今は世界中が大変なことになっているので、中々帰れないこと。二人には寂しい思いをさせてすまない。』という文面が綴られている。

 両親の事は誇らしいと思っているし、ばぁちゃんとソフィーがいるので寂しいとは思っていない。だから、長期間家を離れられるかと言えば、無理だ。薬師をしているばぁちゃんにその後継ぎの9歳のソフィーを二人だけ残してはいけない。余談だが、私は薬師の才能は全く無い。これっぽちもない。


 なので、『私帰るわ』と言うのもわかる。



 家に戻ってきた私はソフィーをばぁちゃんに預け、納屋から荷車を引っ張り出す。今日の仕事が終わってないので、今から行かなければならない。


「モナねぇちゃん、今日はどこに行く?」


 そうルードが聞いてきた。今まではリアンが私の仕事に付いて来てくれたが、リアンがいなくなったので、それを引き継いでルードの仕事になったのだ。


 何故付いてくるか。始めに説明したが、私はカスヒロインだ。その辺の魔物にも勝てやしない。だが、薬師をしているばぁちゃんの仕事に必要な薬草の採取のついでに、よく遭遇するレア物を売って小遣いを稼いでいる。


「今日は西の森かな?リーラ草が少なくなってきたらね」


「わかったよ。護衛は任せて!今日は何があるかなぁ」


 11歳に守られる16歳の私。それに毎日レア物に遭遇するのが楽しみなルードが荷車を引いて西に向かって行った。




 薬草採取は順調だった。そう、順調だったのだ。この瞬間までは·····。

 私とルードは呆然と突っ立っていた。いや、有り得ないことに頭が真っ白になった。

 この森は普通なら子供でも討伐出来る魔物しか存在しない。まぁ、そんな魔物でも私は勝てないのだけど。


 目の前には、大人の男性の大きさと変わらない猿がいる。茶色い体毛に全身を覆われ赤い顔が威嚇している様に歪み牙をむき出している。

 終わった。この猿はグレイトモンキーと呼ばれる魔物だ。それも凶暴で集団で襲って来る。

 本来はこの魔物はもっと南のメドルト山に住んでいるはずだ。なぜ、こんな低級の魔物しかいない森に凶悪な魔物がいるんだろう。


「ルード、逃げなさい」


 私は小声でルードに話しかける。彼の足の速さなら逃げ切れるかもしれない。


「モナおねぇちゃんを置いて行けない」


「私は大丈夫。運は人一倍いいから、行きなさい」


 私の足ではこの魔物から逃げられないなら、足止めぐらいの役には立つだろう。

 しかし、ルードは私の腕を引っ張り、私も連れて行こうとしている。その時いきなりグレイトモンキーが血を噴き出して倒れていった。もしかして、もっと強い魔物がいたのだろうか。ルードを私の背後に隠す。


 しかし、その背後には何もいない。その地面に視線を向けると、人がうつ伏せになって倒れている。周りは血の海となっていた。

 恐らく、グレイトモンキーを斬った後に出血多量で死んだのだろう。その背中や腕には魔物から攻撃されたと思える爪痕が見られる。これは早くこの森を出て大人の人に報告をしなければならない。

 とうとうこんな辺鄙な村まで大型の魔物が来てしまったと。



「うっ····」


 倒れている人物からうめき声が聞こえた。

 生きていた!思わずビクッと体が揺れてしまった。


「ねぇちゃん、まだ、生きているよ。ばぁちゃんに診てもらったら助かるんじゃない?」


 ルードが私の手を引っ張って怪我人の元へ行こうとする。しかし、私の足は動かない。

 この人物を私は知っている。いや、正確にはゲームの中での話だ。


 黒く長い髪をポニーテールの様に一つに結い、この国には見られない着物と袴を身に纏い、手には剣ではなく少し湾曲した刀を持っている。


 和国のサムライであるジュウロウザだ。


 どうみてもこの国には見られない服装を身に着けるなんて、彼以外いないのではないのだろうか。和国は現在鎖国状態にあるはずだ。ゲーム設定ではそうなっていたので、その可能性は高いと思える。島国の和国から大陸へ渡るのも一苦労の上、鎖国状態だとすればジュウロウザである可能性はかなり高い。



 問題はこのジュウロウザがここにいるという事だ。ジュウロウザのステータスは他の仲間よりダントツに高い。勇者リアンのレベルMAXよりも高いのだ。では何が問題かと言えば、彼はクラッシャーなのだ。 


 このフィールドに存在しない魔物が出現するなんて当たり前。敵からクリティカルヒットを受ける率が跳ね上がり、ボス戦だと一撃でアウトだ。


 そして、私モナとサムライジュウロウザは混ぜるな危険と言わしめたほど相性が悪い。二人を仲間に入れると必ずモナが一撃目で死ぬ。どうやり繰りしてもレアアイテム要因であるモナが死ぬのである。

 最悪だ。レアアイテムが欲しいが為に仲間に入れたモナが死ぬなんて、『お前が必要なんだ!』と幾度叫んだことか。ジュウロウザが凶元と分かれば速攻仲間から外した。

 ジュウロウザ。攻撃力は素晴らしいのに、仲間を死に至らしめる凶悪なクラッシャーだったのだ。



誤字脱字報告ありがとうございます

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